偽りのヒーロー



 授業もそこそこに、放課後になると、菖蒲と一緒にファーストフードへ向かった。

菖蒲には私の家の事情を話していて、晩御飯を作る時間の前には、遠慮せずに帰れる。気を遣わないでいられるのが気楽で心地いい。
 

 初めに声を掛けてくれたから、人つき合いのいい女の子なのだと思っていたのだけれど、存外そうでもないらしい。

他にも友人はいるようだけど、あまり多くはないように思うし、女子トイレで会ったクラスメイトに、「一緒にいるのが嫌だったら、うちらんとこ来なよ」と言われ、そこで初めて近づきがたい存在なのだと知った。



「上辺だけの女友達って大っ嫌い。鬱陶しいのよね。さっきもさ、菜子が掃除してるときに……」



 わりとよく喋る菖蒲は、あまり女同士の友情を信頼していないらしい。

昔、誤解が誤解を呼んで無視されてうんざりしたとか、そんなことを話していたから何かトラウマになるようなことでもあったのかもしれない。



「なんでさあ、菖蒲は私に話しかけてくれたの?」



 もぐもぐとポテトを頬張る菜子が、軽い口調で疑問を口にする。

しなびけてふにゃふにゃになったポテトを、指でつまみながら、菜子を見据えて口を開いた。



「……菜子は信頼できそうって思ったからかな」



 その言葉に込められた意味はよくわからなかったけれど、なんだか褒められているみたいで、照れくさい。目を細める菖蒲が可愛くて、2人で笑い合っていた。



「今度はうちにも遊びに来てよ」

「いいの? じゃあ、今度遊びに行くわ。菜子の部屋ってどんな感じなの? 雰囲気とか」

「んー。普通だよ。菖蒲の部屋みたいに可愛くない」



 「ちょっと、やめてよ」と真っ赤になった顔を、手で覆い隠していた。




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