偽りのヒーロー
うーん、と菜子と未蔓は揃って頭を捻っていた。165cmと180cmのスペースを取る二人が、揃いも揃ってショーケースの前で微動だにしない光景は、さぞかし不思議に見えるだろう。
「弟くんは、ナイトレンジャーが好きなの?」
「? はい、そうなんです。だからこっちのほうがいいかなと思って……」
キャラクターのケーキを指さしながら、先輩に悩まし気に打ち明ける。
少し考えるような素振りで天を仰いだ先輩が、「ちょっと待っててね」と、何か思いついたように厨房へ向かって行った。
打ち合わせのような話し声が、厨房から聞こえてくる。ガラスで仕切られた厨房の中から店内を見る先輩と目が合って、菜子は反反射的に会釈をした。
「葉山ちゃん! こういうのはどうかな」
厨房の中から出てきた先輩が、再び菜子のもとへ駆け寄ってくる。手に何かを持って、身振り手振りで説明をしてくれた。
花のケーキにナイトレンジャーを模したマジパンというものを乗せる。そこにプレートを乗せると、花びらを模したフルーツが隠れてしまうけれど、「おめでとう」と書かれたプレートを寄せたら、花畑が広がってる、そんなケーキ。
先輩の説明が終える前に、菜子の胸は高鳴っていた。理想の、楓の、楓が大好きな母の好きなケーキ。魅力的で、理想的でもあるけれど、あまりにも手を煩わせてしまうものは考えようだ。
「いいんですか? ご迷惑かかりませんか、わざわざやってもらうなんて」
「いいのいいの! お父さんも大丈夫だって言ってたし。それにいつも紫璃がお世話になってるから」
実に聞き慣れた名前が耳を掠める。その上、隣の席で毎日のように笑みを交わす友人の。
「あら、てっきり知ってるかと思ってた。ふふ、弟と仲良くしてくれてありがとうね」
「えーーーーっ!」
菜子の悲鳴が店内に響き渡る。ぺしんと未蔓に小突かれても尚、菜子は狼狽えたままであった。