偽りのヒーロー



「まさか、先輩が紫璃のお姉さんだなんて……」

「逆になんでわからなかったの。結城ってそんなにいないじゃん。顔も似てた」



 ケーキの入った箱を、大事に抱えて帰路に着く。

花びらが舞う綺麗な装飾に、ナイトレンジャーが楓の7歳を祝ってくれる特別なケーキ。ナイトレンジャーがあまりに精巧な出来で驚いたが、手先の器用な職人にとって朝飯前だというのだからさすがとしか言いようがない。

行きとは打って変わってうきうきと軽い足取りの帰り道は、思わず頬が緩んでしまう。



「よかったね。きっと楓もおじさんも喜ぶ」



 エレベーターが閉まると同時に、未蔓は振り返ってひらひらと手を振った。楓にばれないように冷蔵庫に入れるのが、また一苦労で。

楓の好きなグラタンとハンバーグに、今日だけは野菜も型抜きでくり抜いて。菜子ができる精一杯の豪華な夕食を作ると、その日は今年一番の歓声が上がった。





「紫璃ー。あんたと同じ学校の子、ケーキ買いに来てくれてたわよ」



 紫璃の家の晩御飯は、店じまいをしてから母が料理をする。サラリーマンの家庭からしてみれば、ちょっと遅めの晩御飯を作りながら、キッチンに立つ紫璃の母。

トントンと小気味いい包丁の音に、バタンバタンと忙しなく開け閉めされる冷蔵庫やキッチンの戸棚。日常のリズムを耳にしながら、紫璃はソファーにもたれ掛かって足を組んでいた。



「あ? 誰が?」



 反抗期なのか、素っ気ない態度で口を訊くのは、ここでは日常茶飯事だ。紫璃の頭を、姉の美奈がぺしんと叩いた。



「あんたと同じクラスの葉山ちゃん! あんたもあの子みたいに少しは愛想良くしたら?」

「隣にいた男の子、スラっとしてたねえ。最近の子は背が高いのね。紫璃も好き嫌いしてたら駄目よ。あとあんたは髪伸ばさないほうがいいわね、きっと似合わないだろうから」

「言えてる〜!」



 紫璃を差し置いて、ぺらぺらと話し出す姉と母。

これだから女はうっとうしい。聞いてもいないことをぺらぺらと。流れるように蚊帳の外に追いやっておいて、平然と会話を続ける。噂なんて耳にしたものなら、瞬く間に光の速さで広められる。

だいたいにして、紫璃は平均よりも身長はあるし、まわりにちょっとでかい奴が多いだけだ、と投げやりに盾突いた。


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