偽りのヒーロー
以前、菖蒲のうちに遊びに行ったときのことだ。
菖蒲の部屋は綺麗な色と可愛い雑貨がいっぱい置かれていて、大人っぽい印象から一転、乙女な子として認識された。
本当はピンクの可愛いレザーのペンケースを使いたいのに、キャラじゃないからと言って、わざわざシックなキャメルのペンケースを持ってきている。携帯のカバーすら、好きな色のものをつけていないらしい。
見栄っ張り、と笑いあった。
容姿端麗でしかもセンスがいいとか、話しやすいとか、付加価値がつくと、同性の妬みの的になるのだと思う。
そうやって誤解するかもしれないであろう人たちを敬遠して、好きなことも大っぴらにできないなんて苦労する。
「てかさ、お昼。立花、なんの用だったの?」
「や、わかんない。普通にご飯食べただけ。なんか普通に世間話して終わった」
「……意味わかんないわ」
「レオは可愛い子が好きらしいよ」
「何それ。そんなの聞いてもなんの得にもならないんだけど」
菖蒲のクールな言葉に噴き出した。
菖蒲はあまり好きな人の話とか、恋愛事の話をしないけれど、たぶん私に遠慮しているのだと思っている。
それなりに恋に興味はあるけれど、生憎毎日が忙しい。
家事もするし、最近お気に入りの漫画を読んだりして時間がない。
恋愛の入り込む隙間などない、と言いたいところだけれど、実は未だに初恋をしていないのは、まだ誰にも言っていない。
人に聞かれたときは、適当に誤魔化したりして凌いでいた。そんな私も、いつかは彼氏が欲しいとか、人並みの思いはあるのだけれど。