偽りのヒーロー
最初に菜子に違和感を覚えたのは、入学式のときだった。
初日早々に遅刻して教室に入ってきて、肩を上下させていた。その容姿を横目で見て、ああ、こいつと遊ぶのも手っ取り早いかもしれない。
そうやって、いつも通りに近くにいる女と同類と決めつけたはずの菜子は、近くを通った残り香が、つき合った女たちとは違う、柔らかい匂いだった。
まだクラスの女子たちがグループを固めていない当初、菜子は化粧室から出てきたクラスの女子と一緒に、教室まで談笑していた。
隣の女が、水のついた手で髪を撫でる反面、菜子はポケットから取り出した綺麗に畳まれたハンカチで、手を拭いていた。
ありし日、別れ話を切り出した女に平手打ちをくらった。か弱い女にしては重めのパンチ。
じんじんと熱を帯びた頬が、紫璃の苛々を募らせると、壁に張りついて身を隠そうとする菜子を見つけた。ずいぶんと良い趣味をしているな、とばかりに菜子を睨みつけた。
菜子は手にしていた大きめの像が描かれたミルクティーを落としたことにも気づかずに、ロボットみたいにぎくしゃくして、一目散に逃げ出した。「何も見てないから」と下手な言い訳をして。
花屋でバイトをしていると知ったのは偶然の出来事だった。
夜通し女と連絡を取り合っていたら、寝るタイミングを見失って、寝ようにも寝つけない、そんなときに夜が明けてまだ人通りの少ない道を、コンビニまで歩いていた。
家からほど近いコンビ二が改装中だとは知らず、舌打ちをして少し離れたコンビニへ行った。朝の6時前だというのに、見覚えのある背中。近くの花屋のある道へと吸い込まれて、店が開くとニコニコ客を捌いていた。
せっかくだ、良い玩具だと思い、からかうつもりで何度か花屋の近くに足を運んだ。花屋になんて、男一人で足を踏み入れることなど気恥ずかしい。
ただただ習慣になったその行為を、友人のレオに、何の気なしに話をした。