偽りのヒーロー



 レオは菜子と席が近いせいか、よく話題の中にその名前が出てくる。


授業中、眠気に抗えず寝こけてしまうレオが、よくノートを借りているのは知っていた。必死で書き写すレオの横からノートを覗き見てみれば、意外にも、丸文字を書きそうなその容姿から想像できないような、習字の先生みたいな綺麗な字が並んでいた。

おまけに極度に甘いものが食べられない。
生クリームを好んで食べる女がたくさんいる中、そいつは胸やけがして食べられないなんて言うのだ。

弁当のほかに、おにぎりを3つも持ってきて、休み時間に早弁するくらい食い意地を張っているくせに。





 変なやつだと思った。


ただ捨てればいいはずのものをわざわざ畳んでごみ箱に放るとこだとか、律儀に勉強道具を持って帰るところだとか。

ギャルみたいな派手な女に良いようにされて掃除当番を代わったり。ずいぶん珍しい組み合わせかと思えば、腰まである髪の毛の幽霊みたいに俯いたやつと何やら親し気に話をして。


くそ真面目なやつかと思えば、一丁前に毎朝一緒に幼馴染の男と仲良しこよしで通学したり。極め付けは休み時間に話すレオとの距離が近い、とその触れた菜子とレオの腕を何度凝視したことだろう。


いつもいつも、何が楽しいのか、へらへらと笑っている菜子が、何を考えているものかと思っただけなのだ。




 少しだけ、少しだけ知ってもいいかもしれない。


 最初は、店のテーブルに飾る花を買いに行こうとする母の代わりに、菜子の勤めるバイト先に赴いた。ろくに話したこともなかったが、「結城くん」と呼ぶ声は、思っていたより落ち着いた声だった。


 理由なく来たと思われるのもしゃくで花屋に行くたびに花を買って行った。しかし高校生で買える花なんて、たかが知れている。通うためには細く長く。そう思って、一本の花を買うことにした。
 

毎度のことながら「いらっしゃいませ」とへらへらしている。不覚にも常連客となりつつなった頃、学校でも声を交わすようになった。そうは言っても特別親しいわけでもない。


ゆっくり言葉を交わすには、足繁く通うしかなかったのだ。


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