偽りのヒーロー
友人に誘われて、結局夏祭りへ足を運んだ。どうにも気が乗らなくて、始終友人の後ろを歩いている。
人混みの中、ピントが合ったように菜子の姿が目に入った。用があると断ったはずの菜子が、来ていることに一瞬頭が熱くなってしまう。
誘いを断っておいて誰と来てるんだよ、そんな風に考えながら、菜子の後ろ姿を追いかけた。
家族らしき父と弟。屋台の前で、困ったように眉毛を下げていた。
近づいてみれば、何個もの切れたこよりを握りしめた弟が、標的のヨーヨーに音をあげている。代わりにすくったヨーヨーに、目を輝かせてはしゃいでいた。
200円の、価値があるのかわからないその水風船に。
家族と戯れる機会が多くないだろうか。
女子高生なんて、遊んで過ごす日々だろうに。レオに問うてみたところで、「おかしくないし、友達とも遊んでる」と真っ当な返事が返ってきた。
そうかもしれない。男と女で思考回路も違うだろう。どうにも疑問を取り払うことができずに、再び菜子のもとへ向かった。
何事もなかったかのように、笑って隣を歩いてくれる。当然だ、紫璃は何一つ話していない。一人で悶々としては菜子のことが頭を過ぎる。
駆け引き何てクソくらえ。
奮い立たせて投げた言葉が、どんなに不躾なものだったのかは計り知れない。人の心に土足で踏み入るような後悔の言葉に「ありがとう」と茶化した言葉と共に笑っていた。
後悔。
その言葉が一瞬で身体中を駆け巡った。
何も言えなかった。知りたいと思った好奇心が、人の心に触れるものだとは知らなかった。ごめん、と菜子に触れた手が振り払われると、呆れられたのかと思っていた。
ころりの手のひらに落とされたチョコレート。泣いた子供にお菓子をあげて宥めるような。そんなに子供じゃないとくすりと笑える。
それでも無抵抗に人を傷つけたであろうことに、肩を落として来た道を戻る。帰ったはずの菜子が何を楽しそうに笑っているかと思えば、紫璃のもとに懸けて来て。
「すごい! 紫璃って言うと、ニッてなる!」
満面の笑みを浮かべてきた菜子を抱きしめたくなった。ひとりよがりの紫璃の落ちた心を上昇させて。ドクンと胸が跳ね上がった頃には、もう遅い。
——好きだ。噛みしめた唇の端から、言葉が零れそうになった。