偽りのヒーロー




 学年別の徒競走、短距離走と長距離走。フィールドの中で行う、玉入れ、長縄跳び、綱引き。借り物競争などのバラエティに富んだ競技。トリを飾るのがリレーなのだというのだから、なんとも重圧ののし掛かる競技である。



 体育祭の前の数週間は、授業の時間が体育祭に向けた競技の練習になる。多くは長縄を飛ぶ練習をしたりしてクラスの士気を高めるのだが。



 本校の体育祭は、クラス別対抗で行われる。一年生から三年生までの学年を混ぜこぜにして、同じ組同士が同じチームメイト。

一組であれば、一年一組、二年一組、三年一組がチームを組むといった構成で進められる。応援弾幕を作って応援合戦。揃えたチームTシャツを身に着けて。

机に向かった座学の勉強ではない特別授業になった時間割が、学校中の気分を高揚させている。




「赤って趣味悪くない?」

「えー! かっこいいじゃん!」

そんな井戸端会議が、そこいらじゅうから聞こえてくる。


菜子は手渡された、でかでかと「1」と書かれた赤のTシャツを見ていた。



「菜子は赤結構似合ってるわね」

「菖蒲が着るとなんか派手だね」



 胸元にピタリとあてた菖蒲のTシャツ姿を、菜子は前から後ろから菖蒲のまわりをうろちょろと見て回る。「自覚してる」と、恥ずかしそうに菖蒲はそっぽを向いた。





 一組は赤いチームTシャツに決定したようだった。

上級生と体育委員が中心となって決めたTシャツは、7組まである各チームの色が被らないようにと頭を捻って決めてくれたものだ。

「赤は嫌いじゃないけど、どうせなら好きな水色が良かったな」なんて愚痴は、心の中だけで収めておいた。



 人気があるのは黒のTシャツで、毎年3年生同士の熱いじゃんけん勝負が開催されるらしい。


今年のチーム色。1組が赤、2組が黄色、3組が黒、4組がピンク、5組が白、6組が緑、7組が水色という名の青。



バリエーション豊富なカラフルなTシャツに身をつつんだ姿は、なんとも圧巻の光景だった。


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