偽りのヒーロー



「なーこー。練習行くぞー」



 袖を捲った、クラスメイトの和馬。いかにも足が速そうな彼は、バスケ部に所属していた。ほんのちょっぴり男子生徒にしては小柄な生徒なのだが、明るい性格で人懐っこい。



「はいはーい」



 やる気のない菜子の返事に「はいは一回!」と、数馬の熱のある指導が入った。



 校庭に移動すれば、同じように赤いTシャツを着たチームメイト。二年生と三年生の各学年の男女が肩を並べて草の上に座り込んでいる。



「遅くなってすみませんっ! あ、やっぱ昴(すばる)さんもリレーっすか。さすがっすね!」

「誰?」

「バスケ部の先輩!」



 さすがは運動部なだけはある。引退したということだが、菜子以外の面々は合わせたように運動部のメンバーが連ねており、菜子は肩身の狭い思いでいっぱいだ。



 顔合わせということで、雑談交じりに自己紹介をした。どの先輩方も、揃いも揃っていかにも運動が得意そうな人たちばかり。

気さくに笑うメンバーの中で、居たたまれなくなって、和馬の影に隠れる。とは言っても、小柄な和馬の身体には隠れきることはできなかった。



「菜子ちゃん、そんなに遠慮しないで大丈夫だよ。俺もそんなに運動できないからね」



 昴が優しい笑顔で菜子に微笑みかける。ずいぶんと物腰の柔らかな先輩が、菜子の緊張を解そうとしてくれていた。



「いや、昴さんめっちゃ足速いじゃないっすか! かっけーす! 俺の憧れっすもん!」



 差し伸べてくれたはずのフォローは、和馬の素直に先輩を慕う言葉に崩されてしまった。空気が読めない、なんて先輩たちが楽し気に声をあげている。



 他のクラスが使用していたグラウンドが空いたところで、1組の面々もさあ練習だと腰をあげる。ぞろぞろとグラウンドに散らばるところに、昴が菜子へ声をかけた。



「あれ。菜子ちゃん意外と背が高いんだね。もっと小さいかと思ってたよ」



 ぽんぽんと触れる手のひらがしっくりこないのか、大きな手が菜子の肩や背中の付近をうろうろと彷徨っている。ゆうに180cmはあるだろうか。レオと同じくらいかもしれない。

軽く見上げた昴は、菜子の腰元に手を添えて、「頑張ろうね」と隣に並んで歩いていた。





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