偽りのヒーロー
合同体育の時間は好きだ。
ネットで区切った体育館には、2クラス分の人数を収容していて、ちょこちょこ息抜きができる。
男女共に違うコートに立ったその時間は、バレーボールの試合をしていた。
中学時代、バレー部だったという菖蒲は、経験者らしいその動きで、クラスメイトに囲まれている。ふと目があって、手を振った。
ちょっと、と菜子を呼ぶ声のもとへ近づくと、ネット越しに座るレオが、暇そうに隣のコートを眺めていた。
「……あのさ、レオって菖蒲のこと好きなの?」
目を見開いて、ばちっと音が鳴るほどの勢いで、菜子の口を塞がれる。ふごふごと呼吸を遮っているのに気づいたレオは、「ごめんっ」と慌てて手を退けた。
「な、なんで知ってんのっ!?」
声を潜めていうあたりに、真剣さが窺える。やっぱりそうかと妙に納得すると、視線がふよふよ泳いでいた。
なんでと言われても、と軽く笑って返す。
用もないのにあんなに見つめていたら、きっと誰でも気づくのではないだろうか。隣の席の人が、自分の目の前の人をじっと見つめていたら、嫌が応でも勘づくはず。
いつからなの、とからかうと、長い睫毛が下を向いた。
「……小学校のとき。小学一年の、ときから」
「えっ!? じゃあ10年くらい片思い!? ひえ〜…」
「ば、ばか! 声がでかいよ!!」
レオの話だと、小学校が一緒だったらしい。
日本人離れしたその容姿が、小さな頃は格好の的で。
いじめというほどでもないと言ってたが、「ガイジンだ」とその深い青の目をからかわれたらしい。
ある日、同じようにからかわれて泣いているとき、菖蒲が庇ってくれたのだという。
——なんでないてるの? あおい目、きれいなのに。そんなにごしごししたらもったいないよ。赤くなっちゃう。せっかくキラキラしてて、青いばらみたいなのに。
「って言ってくれてさあ、ヒーローだ! って思ったんだ。あの頃から、ふわふわした髪が可愛くて……。中学校は別々になっちゃったんだけど、高校、しかも同じクラスになったらさあ! わかるだろお!?」
「……興奮しすぎで、ちょっと気持ち悪い」