偽りのヒーロー
「すみませーん、ちょっと校庭お借りしまーす」
そう言って、ぞろぞろと援団服を着た凛々しい姿の集団が、ずらりと芝の上に勢ぞろいしていた。応援合戦の型合わせの練習だ。
リレーの練習をしていた各クラスの面々は、端に座って練習の光景を見物していた。
ぶちぶちと草をむしる和馬に、「やめなさい」と昴が笑って制している。大きく澄んだ声が響き渡ると、リズムを刻んでエールが木霊する。
ダンス交じりの野球のアルプスの応援団のようなクラスもあれば、定番とも言えるお腹に響くような太鼓の音に合わせた応援。
赤く長いハチマキをつけた、一組の応援団が姿を現すと、ここぞとばかりに赤いTシャツを着たメンバーから拍手が送られていた。
「やっぱレオ目立つなあ!」
興奮したように和馬が前のめりで視線を注ぐ。
どどんと中心に構えるレオが、普段と陽気なレオとは打って変わって、勇ましく目に写った。彩りを添えるように菖蒲と紫璃の立ち位置もすぐさま把握したのち、菜子と和馬はひらひらと手を振る。一瞬にして手を振るクラスメイトを見つけたレオは、ぶんぶんと大きく手を振って応えている。
「今年の一年生は育ってるね〜。粒ぞろいじゃない」
3年の女性リレーメンバーの侑李(ゆうり)さんが、応援団と菜子を見ながら顎に手をつけ、ふむふむと頷くような仕草をした。その後、和馬の顔を見ると、黙って目を逸らしていて、それを見たメンバーが皆一様に笑っていた。
「リレーのメンツは仲いいなー」
レオが遠くでまとまって腰を下ろす菜子たちを見て口を開く。紫璃は眉間に皺をよせ、不機嫌さを隠せていない。
宥めるように紫璃の肩にぽんぽんと手を置くと、紫璃はそれを振り払う。
紫璃は菜子のいる方向に目を向けたが、あちらは仲睦まじく笑い合っていて、こちらに気づく様子はなかった。