偽りのヒーロー
「あ、ミッツだ」
レオが指を指した先には、未蔓が紙切れを開いて、うろうろ何かを探している姿が見えた。
どうやら借り物競争に参加しているらしい。友人だというレオが、きょろきょろとする未蔓に手をふると、じっと視線を預けてから、ふいと顔を逸らす。
何かを探すように右往左往としている。
「いた」
未蔓の視線の先に、菜子を捉えた。駆け寄ってくるのが見えて、菜子は未蔓に小さく手を振った。まさか自分を探しているとは思わずに。
「きて」
キャー、と悲鳴のような黄色い歓声があがる。未蔓が菜子の腕を掴むと、戸惑う菜子を真顔で連れてゴールへ駆け寄っていく。
「おいおいおいおい! ミッツ! どうしたんだよ!」
「おい7組! うちのチーム、ダシに使うの卑怯だぞ!」
「菜子! お前7組に肩かすんじゃねえよお!」
水色と赤色のシャツが並んで駆けていく様子は、目立つ色の組み合わせも相まって、注目の的になっている。
やんややんやと野次が飛んできたのが菜子の耳に入ってきており、肩身が狭くなる。
和馬の野次だけは聞き逃さなかったため、後でケチをつけなければ、と心に決めてゴールテープを切った。