偽りのヒーロー



 興奮した様子で、レオは競技に釘付けになっていた。ばしばしと紫璃の背中を叩いているがしかし、紫璃は苛々と膝を揺らしていた。



「……そっちかよ」



 寄り添ってゴールした二人を見て、紫璃は舌打ちをした。歓声にかき消されて、隣のレオにも聞こえない。



 ゆっくりと駆けだしてゴールテープを切ったときには、未蔓は1と書かれたプレートを持たされ、他の競技者がゴールするのを待っていた。

隣へ座るよう促され菜子は呆然としていると、係の生徒が未蔓の手にした紙切れを確認、微笑みかける。そこはかとなくふわりとした雰囲気を感じて、思わず未蔓に詰め寄った。



「頑張った」

「そうだね、……って違うよ! あれ、なんて書いてあったの?」



 ギャーギャーと「お前は一組だろ!」なんて騒ぐ和馬を尻目に、未蔓の顔は満足気だ。
手に持った紙を菜子がするりと抜き取ると、「友達」と書かれた文字が目に入って、思わず未蔓を見る目が歪む。



「菜子の顔が、浮かんだから」



 気の抜けた笑顔に、菜子は胸が熱くなった。歪む視界が零れ落ちそうで、ぽんぽんと頭を撫でる未蔓の目が細くなっている。



「……未蔓は私を泣かせたいわけ」



 目尻に溜まった涙の雫が、うるうると菜子の目に耐え忍んでいる。

「それも悪くないかもね」、そんな意地悪な言葉と笑みで、菜子の目尻を拭っていた。

「ありがとう」と呟く菜子が、ひどく頼りなさげに微笑んで、今にも泣き出しそうな顔になっていた。



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