偽りのヒーロー
はあ、と口の中から何か出てきそうなほどの、大きな大きなため息をつく。
未蔓と並ぶ帰り道、菜子はずいぶんと重い足取りだ。コンビニで買った、季節先取りの肉まん。白い湯気をもわもわと纏いながら、未蔓は包みを指先で器用に開いていた。
半分こにしたぎっしりとお肉の詰まった肉まんを、ため息のつく菜子の口に半ば無理やり押しつける未蔓。
「そんなでっかいため息、幸せ逃げる」
「ごめん、いらない。胃がむかむかして入らないや」
押しつけられた半分のそれを、菜子は小さく齧って口から放す。もらったはずの肉まんを、未蔓にはい、と手渡し返した。
怪訝な目で見る未蔓の目はごもっとも。いつもどおり、お弁当の他に早弁用のおにぎりまでしっかりと持っていているからだ。
「……食べらんないなら無理して弁当持ってかなきゃいいでしょ」
無下になった優しさを、口に頬張ってもごもごと咀嚼する。「だって」と、する必要のない言い訳を、菜子は小さく吐き出していた。
「隣の席、紫璃だし。いきなり何も食べなくなったら怪しまれるよ」
無駄な努力、と言い捨てて、未蔓は変わらず頬をもごもごとさせる。
いつもより静かな帰路を、冷やかすようなことはしなかった。ただただ黙って歩く未蔓の隣は、いつも我慢し虚勢張った糸が切れそうになる。
上手く一人で感情を消化できないときに、隣にいてくれるだけでこんなにも心強い。
「無理しないほうがいい。身体壊したら元も子もない」
そう言って頭に手を置くと、心配そうに細める目が、エレベーターの扉で遮られた。ぐしぐしと涙の零れそうな目を荒く袖で擦った。