偽りのヒーロー
「なんだ菜子。一人で飯食ってんのかー。寂しい奴だな〜」
けたけたと乾いたレオの明るい声が、上から降ってきた。
普段ならば言えるような、「うるさいな」の一言すら言えないでいる。「……そうだね」と噛み合わない会話のキャッチ—ボール。
困ったように眉毛を下げると、菜子の隣へどかっと腰をおろした。
確信を突いたレオの一言に、菜子は肩が重くなった。
ざわつく胸中が、ふらふらと不安な気持ちを彷徨わせる。菖蒲のことをあんなにも近くで見ているのだ、恐らく変化にも気づいているに違いない。
けれどまだ、その気の使い方が、今の菜子にはむしゃくしゃする理由になってしまう。
ちらちらと菜子を窺う様子が、話のきっかけを探ろうとしているのが見て取れた。
昨日のテレビ番組、今日の先生のつまらない話、……ここ最近の菖蒲のため息をついた回数。きっとその細く小さな菖蒲の背中を、レオは幾度となく見つめていたに違いない。
「お前さー、最近菖蒲ちゃんと話してなくね? 何、ケンカかー?」
茶化すような口ぶりを、上手くあしらうことができなかった。つらつらと、明るく言葉を重ねるレオに、菜子は眉間の皺を深く刻んでいた。
「お前また菖蒲ちゃんに乙女だとかなんとかからかったんだろー。お前みたいにへらへらしてないんだ、繊細なんだぞ、菖蒲ちゃんは」
そうなのかな、と菜子はぐるぐる思考回路を巡らせた。
確かに一見ギャップのある菖蒲の趣味は、可愛らしいと口にしたことはある。本人が望んでいない目立つ顔の造形だって、からかい交じりで褒めたつもりだったのだが。
菜子のとった態度は、意に反して菖蒲の負担になっていたのだろうか。