偽りのヒーロー
いじめは加担したほうは気にも留めない小さなことを、やられたほうはずっと心に傷を作る。
いつもそれを心に留めて、手を取り合いましょう、そんなことを小学生の道徳の授業でやったことがあるな、と頭の隅の記憶をわずかに呼び起こした。
いい加減に愛想をつかせて、一緒にいるのも嫌になるくらいの態度をとったつもりはない、……のだけれど。
ただでさえ進まない箸を、お弁当箱の上に、ぱちんと音を鳴らして置く。
「……知らない。レオには関係ないじゃん」
こっちだって、何がなんだかわかっていない。そんな菜子のまとまりきっていない感情が、冷たい言葉で口から零れる。八つ当たり。その言葉がぴったりな。
「……その言い方なんだよ。こっちが心配してやってんのに」
「心配してなんて頼んでない!」
大きく張った菜子の声に、レオは眉間の皺を寄せた。俯いた菜子の表情は見えない。苛々と明るく接していたはずのレオの態度も一変していた。
こっちの気も知らないで、そんな風に思うのは菜子のエゴだ。自分だって何が原因で不仲に片足を突っ込んでいるかなんてわかりもしないのに。
突然核心をつかれて、心臓が大きく脈打った。
菖蒲のことを好きだというこの友人に、菖蒲のことを相談できるわけがない。
きっと自分のことを庇って、菖蒲を下げる言い方になってしまうと思う。「菜子は悪くない」と、自分の都合のいい言葉を求めている、ずるく卑劣な浅ましさ。
それだから、せめて一人でなんとかできたらと思っていたのに、訳が分からず、菖蒲に謝ることもままならない。
「……勝手にすれば」
そう言って、レオは菜子の隣を去っていった。睨みつけるような視線に、菜子は膝を抱えた。頭を膝の上に置いて、暗くなった視界が歪んでいく。
いつもそうだ。自分の気持ちも言えないで、重ねた色を、さも元来のもののように見せる癖。
菜子は小さくため息をつくと、ふるふると顔を振り、頬を手のひらで押さえた。
ぐにぐにと押しつけて、教室の中で平然と振る舞うために。