お月見泥棒
 そう気付いた融の頭上で、さぁっと雲が割れた。
 月明かりが祠を照らす。

「……っ!!!」

 ころころころと、中から赤い団子が転がって来た。
 融の足から力が抜け、がくん、と一段、階を落ちて、地に尻もちをついた。
 融を追うように、赤い液体とそれに染まった赤い団子が、ころころころ、と階を落ちてくる。

「……ひっ……」

 叫びたいのに、喉がひりついて声が出ない。
 蟇の鳴くような声を出して、融は尻で後ずさった。
 融のつま先に、赤い団子がこつんと当たる。

 かたりと、僅かな物音に顔を上げれば、階の上に女児がいる。
 金色に光る眼で、じっと融を見る。

 元々真っ赤な唇が、今は血で染まっている。
 伸太と、喜助の……。

 女児が、にぃっと口角を上げた。
 その唇から、鋭い牙が覗く。

「荼枳尼天は血を好む……」

 小さく謡うように言うと、女児は地を蹴った。
 牙が、真っ直ぐ融の喉笛を狙う。

 ざぁっと風が吹き、ねっとりと甘い臭いが、辺りに立ち込めた。



*****終わり*****
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