お月見泥棒
 お月見泥棒は、各家の縁側に供えられたお供え物を、子供が盗って行く行事だ。
 盗られること前提なので、家人は盗るところを見つけても、知らぬふりをする。

「わぁ、さすがに豪華だなぁ」

 伸太と喜助が庄屋の家の縁側に近付き、供えられている餡団子に手を伸ばす。
 融は不安そうに、きょろきょろと辺りを窺った。

「早く。庄屋さん、この前新しいお嫁さん貰ったところだし、その人がお月見泥棒のこと知らなかったら怒られるよ」

「そんなの、よそ者の勝手な都合だろ。この村に来たんだったら、村の風習ぐらい知っとけってんだ」

 言いつつ、伸太がぱくりと団子を口に入れた。
 そのとき。

「……あら」

 すぐ前の障子が開いた。
 ぎょ、と三人の動きが止まる。

「あらあら。可愛い狐さんね」

 姿を現したのは、綺麗な女人だった。
 小さな子供を連れている。
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