オーロラの歌




『生きろよ、ラジ』


『もうイタズラしちゃダメだからね?』



二人は最後の言葉を、俺に贈った。



『今まで、ありがとう』



俺も、二人に別れの言葉を紡ぐ。


胸の痛みに気づいていない振りをして、こみ上げてきた涙を拭って、本を抱えるように持つ。


父さんの大きな手のひらが、俺の本を持っている手に、ふわりと触れた。



『グラウンドへ、テレポーテーション』



父さんがそう唱えると、俺の体が宙に浮かんだ。


最後に見た二人の表情は、ひどく優しかった。




そして、息を呑んだ瞬間、俺は火の海だった図書室から、先生と生徒が避難していたグラウンドに移動した。



……逃げれたんだ。


火が本を焦がすことも、俺が死ぬこともなく。


こんなにも、あっさりと。


ポロッ、と涙がひと粒だけ頬を伝って、滑り落ちた。



心にぽっかりと、大きな穴が空いてしまったような感覚だった。



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