オーロラの歌



いやしの歌のせいであまり力の入らない足を必死に動かして、お父様に近づいていく。


お父様はいやしの歌に全精力を使っているせいか、もしくはあたしを信じているのか、あたしが近寄っても、その場から離れなかった。



いやしの歌って、本当に不思議ね。


せっかくあたしと合体した闇が、徐々に薄れていくようだ。


でも、あたしは決心してしまったの。



ナイフを、お父様に向ける。


お母様があたしを止めにかかるが、あたしはお母様を押し倒して、お父様のところへ走っていった。


お父様の心臓めがけて、ナイフを刺そうとしたその時。



『……うっ』



国歌を歌っていたお父様が、サビに入る寸前で心臓を抑えた。


な、なに?


あたし、まだナイフ刺していないのに。


状況が理解できなくて、ナイフを下ろした。



片膝をついたお父様は、未だに途切れ途切れに国歌を歌い続けていた。


歌声とは呼べないほど、拙くて細い声だった。



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