オーロラの歌



残されていた希望は、たった今消えた。


閉じた瞼の裏に広がるのは、闇の世界。


そこが、あたしの居るべき場所。



『お母様、大丈夫よ』



たくさん怒って、泣いて、叫んで、責めて。


その後に溢れ出す悲しみが、お母様を支配するよりも早く。



『あたしが、また二人一緒にいられるようにしてあげるわ』



複雑に感情が入り混じっているお母様の息の根を、一突きで止めてあげるから、そんなに取り乱さないで。


悲しみも痛みも、一瞬だけ。


あたしが、天国でも地獄でも、好きなところへ連れて行く。



微笑みながら、お母様にナイフを近づける。


お母様の涙が、ピタリと止まった。



『嫌……や、めて……っ』



ナイフを拒むお母様に、あたしは微笑みの仮面を外して、勢いよくグサッとナイフを突き刺した。


死にゆく人の願いを聞くほど、あたしは優しくないわ。



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