オーロラの歌
灰色の雲が流れ、晴間がのぞく。
ゼロさんの不安げな表情は、まだ晴れていない。
「それじゃあ、いつか……」
透明な声が、勝手に喉からこぼれ落ちた。
「いつか、歌が好きになったら、一緒に歌いませんか?」
いつになるかわからないけれど。
この約束が叶うかどうかも、わからないけれど。
ゼロさんが嫌いだった歌を好きになったら、私とゼロさんの関係も変わる気がして。
ゼロさんは何を言うことなく屈託なく笑って、樹木から一歩離れた。
いつの間にか雨が止んで、晴れ晴れとした天気になっていた空の遥か下で、ゼロさんは私に背を向けた。
「また、会いしましょう」
前と同じ別れの挨拶を告げたゼロさんは、私が瞬きをした一瞬に姿を消して、どこかへと去ってしまった。
そういえば、と脳裏を過ぎった、湖でゼロさんと会った時の儚い記憶。
『オーロラさんに、会いたかったんです』
『え……?』
『ずっと、ずっと、会いたかったんです』