オーロラの歌
だんだんと熱と痛みが消え失せていく左目は、きっとお母様の髪色と同じ、綺麗で鮮やかな赤色に染まっているのだろう。
大好きな黒色は、赤色に侵食されてしまった。
僕は、もう姉さんを「姉さん」と呼べなくなる。
まっさらな感情も、会いたい気持ちも、砕かれる。
僕の意思は、眠らされるんだ。
――さよなら、姉さん。
重くなった瞼が、否応無しに閉じられていく。
瞼の裏に広がる暗闇には、幼い頃の記憶が流れていた。
あれは、僕が五歳になる数日前。
お昼すぎに僕の部屋で、お父様から勉強を教わっていた。
『正解だ。次の問題を解け』
お父様は、ロボットのようだった。
どれだけ勉強を頑張っても、褒めても、喜んでも、笑ってもくれない。
けれど、僕もお父様と同じだった。
心の奥の奥では、甘えたくて、感情を表に出したくて、はしゃぎたいのに、できない。