オーロラの歌
目の前で繰り広げられる、お母様の一方的な暴力。
抵抗も逃げることもできないお父様は、されるがまま。
傷つけられているお父様をこれ以上見たくなくて、目を瞑りたくなった。
『……もういいわ』
お母様は、ケーキを切り分ける時に使った包丁を手にした。
やめて。
お母様の願いは、能力以外のことは、僕が全部叶えてあげるから。
『あんたなんか、要らない』
虚しく響いた、お母様が慣れた手つきでお父様の心臓を包丁で突き刺す、残酷な音。
ふき出た血が僕の方にも飛び散って、吐きそうになる。
お母様は、死んでしまったお父様を哀れみはせず、嘲笑うように口角を上げた。
どうして僕は、椅子に座ったままなんだろう。
どうして僕は、お母様のように怒れないんだろう。
どうして僕は、こんなにも悲しいのに、泣いていないんだろう。
冷たく凍った寂しさが、僕を包んでいく。
体温が下がっていっているようだった。