オーロラの歌



自分の目を疑った。


片膝をついたシエルの胸に、突き刺されたナイフに。


刺されたというのに、血が一適も出ていないことに。


なにより、シエルの体が消えかけていることに。



「シエル、待ってね。今いやしの歌で治すから」



声を震わせながら、シエルの胸にそっと触れる。


精霊は姿を消せるけど、今みたいにキラキラと眩く煌めきながら、足の方からゆっくり消えていくのは初めて見た。


これは、危険だというサインなのかもしれない。



早く、歌わなきゃ。


焦って、歌詞が出てこない。


どうしてこんな時に限って、歌えないの!?



「やめろ、歌うな」


「でも……!」



歌わせてよ。


今、歌詞思い出したから。


ダ、ダイジョーブ。いやしの歌なら、ダイジョーブだよ。



「この国を救うことだけを考えろ」



そんなこと言わないで。


シエルだって救いたいんだよ。



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