オーロラの歌
利一くんの表情からは、本当に恋愛感情が全くないように読み取れる。
幼なじみってそういうもんなのかな。
少女漫画の読みすぎ?
「唯夏ちゃんは、僕の憧れなんです。ヒーロー、みたいな」
利一くんは懐かしそうに、それでいて切なそうな声を紡いで、俯いた。
ヒーロー、か。
女の子をそう表すのは、滅多にないことだ。
でも、利一くんの心に在る、唯夏ちゃんが大事だという大きな気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
幼なじみって、いいな。
利一くんと別れた私は、家に帰ろうと校舎を出た。
校門を曲がってすぐのところに、見知った背中を見つけて駆け出す。
私は、その背中をバシッと叩いた。
「いった!」
「今帰り?」
「……やっぱお前か、琉美」
ギロリと睨んできたのは、私のいとこの六沢 芹【ロクサワ セリ】。
オリーブ色の短髪に黒縁メガネが特徴の、同じ学校の三年生。
「久し振りに一緒に帰ろうよ、せっちゃん」
「その呼び方やめろ」
「えー、別にいいじゃん、せっちゃん」
「だーかーらー」
「なんでよ、せっちゃん。せっちゃんってあだ名、好きじゃないの?ねぇ、せっちゃん」
「せっちゃんせっちゃん、連呼すんのやめろ!」
声を荒げたせっちゃんに、私はペロッと舌を出しておどける。