オーロラの歌



せっちゃんは重いため息をついて、意味もなくメガネをかけ直した。


昔はせっちゃんも、私をあだ名で“るんちゃん”って呼んでくれていたのに、今ではすっかり“琉美”と呼び捨てされている。


そんな些細なことに寂しさを覚えてしまうのは、私がまだ子どもだという証なのかな?



「こうやって並んで帰るの、小学生以来じゃない?」


「お前が勝手に付いてきてるんだろうが」


「だって、一緒に帰りたかったんだもん」


「マジ鬱陶しい。邪魔。どっか行け」


「ひっどーい」



物心つく前から一緒にいる、私とせっちゃん。


長い付き合いだから、せっちゃんのことはよくわかっている。


例えば、せっちゃんの毒舌はほとんど嘘で、本音を隠しているだけ。


せっちゃんは顔に感情が出にくいし、素直になるのが苦手なんだ。



「本当は私と帰れて嬉しいくせに」


「バカじゃねぇの?んなわけねぇじゃん。冗談言うな」



からかった私に、せっちゃんは唇を尖らせて、私の頭を乱暴にかき乱した。


せっちゃんの手のひらは、太陽みたいに温かい。


ただの暴言吐きまくりの毒舌男子だったら、こんなに優しい手はしてない。



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