オーロラの歌
せっちゃんは私から手を放して、プイと顔を背ける。
あ、照れ隠しだ。
可愛いな、せっちゃん。
ふふっと笑みをこぼして、一度足を止めてみる。
私と帰りたくないのが本音だったら、そのまま私をおいて先に行っちゃうはず。
「何してんだ、アホ。おいてくぞ」
立ち止まっていた私に気づいたせっちゃんは、一瞬だけ視線をこちらに向けて、仕方なさそうな口調で言った。
ほら、やっぱり。
せっちゃんの毒には、愛がある。
「待って、せっちゃん」
「その呼び方やめろって言ってんだろ」
「やだ」
「やだ、じゃねぇよ。せっちゃんって、キモイんだよ」
「じゃあ、せっちゃんが私のことを“るんちゃん”って呼んでくれたらいいよ」
「嫌だね」
「それなら、私もせっちゃん呼びやめないからっ」
せっちゃんと口論しながら、大きな桜の木の前を通り過ぎる。
空へと舞っていった一枚の桜の花びらが、風に運ばれて、私の足跡をたどる。
雲ひとつない青い空の下、花びらが私を追いかけているとも知らずに、私はせっちゃんと家路を歩いていた。