オーロラの歌



椎本くんの澄んだ瞳が、おぼろげに揺れた。


私には、椎本くんは自分の温もりしかわかっていないように感じて。


大丈夫だって言いたくて。


椎本くんに触れたくなった。



「それでも」



ポツリ、と椎本くんの声が落とされた。


寂しさと苦しさが、交差する。



「仲間にはなんねぇよ」



椎本くんはそう言って、空き教室から出て行った。


椎本くんがいなくなった空き教室は、静寂に包まれていた。


私は、しばらくの間、動けずにいた。


椎本くんと、オーロラと出会ったばかりのラジの姿が、重なって見えたから。




一時間目の授業に遅れてしまった私は、先生にみっちり叱責されてしまった。


視界の端に映った佳那は、昨日みたいに笑っていた。


佳那にまたからかわれちゃうな。


先生の長いお説教が終わってすぐ、授業が再開された。


私は自分の席に座り、教科書とノートを開く。



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