オーロラの歌
そんな、人生を大きく変えた出会いや旅を、私は記憶として知っている。
けれど、私は表面的で外部的にしか知らない。
アンジェラスの温かさも、ラジの兄貴肌なところも、グリンの嘘つきなところも、シエルの寡黙なところも、ウメおばあちゃんの穏やかさも、ゼロさんの切なげなところも、イービルの恐ろしさも。
感覚として、感情として、知っている。
なのに、“私”としては全く知らなくて。
ひとつひとつの言葉も、何気ない仕草も、些細な表情も、ルシフェル王国全体も、気温や気候も、負った傷も。
肌が、足が、手が、身体が、ちゃんと覚えている。
なのに、“私”が知っているわけではなくて。
“私”は彼らを知りたいのに、オーロラの記憶を通してでしか知ることができない。
それは、“私”が知るのは不可能だということを、意味していて。
記憶の中の彼らを蘇らすことも、できなくて。
時々、感じてしまうんだ。
あっちの世界とこっちの世界を隔てる、目には見えない、大きくて分厚い壁の存在を。
小さな矛盾が、私を苦しめる。
『お前、オーロラだろ?』
唐突に耳をかすめた、“私”が知っている声。
……え?
今のって、前世のものじゃなく、現世の記憶の中の、椎本くんの声?