オーロラの歌




遅咲きの桜が舞う、四月下旬。


その日は朝から、胸がざわついていた。



『わっ』



校舎に入って下駄箱で靴を履き替えようとしたら、とある女子が段差につまづいて転びそうになった。


俺の身体は、勝手に動いていた。


女子の腕を掴んで、転ばないように支えてあげた。



『大丈夫?』


『は、はい』



声をかけると、女子は振り返った。


心臓が、ドクン……と揺らめいた。


なんだ、これ。


感じたことのない感情が、芽吹き始める。



『助けてくれてありがとうございました』



ふわりと柔らかな笑みを向ける彼女が、名前も知らないはずの彼女が、なぜだかとても愛おしくて。


心の奥が熱くて、苦しくて。



――衝動的に、好きだと想った。



頭に浮かんだのは、一目惚れ、という言葉で。


まさかと疑いながら、目の前の女子に目を奪われていた。



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