オーロラの歌
確かに在った愛が、薄れていくのを感じた。
母さんは、別れ際に俺を抱きしめた。
『元気でね、怜司』
涙は、出なかった。
母さんの温もりが、息苦しさを連れてきて。
喉に、渇きを与えた。
母さんは切なげな笑顔を浮かべながら、離婚届を片手に、家を出て行った。
バタン、と閉まった扉が、淡くて儚い境界線のようだった。
いつまでも扉を見つめ続ける俺の頭を、隣にいた父さんが何も言わずに撫でた。
横目に映った父さんは、ひどく傷ついた表情をしていた。
『父さん』
『ん?』
やっぱり、まだ母さんのことが好きなんでしょ?
どうして、離婚届にサインする前に反対しなかったの?
『……ううん、なんでもない』
きっと、父さんにとって、俺の思考を埋める疑問は、全て愚問なのかもしれない。
父さんは母さんを愛しているから、離婚したんだ。
母さんを、これ以上苦しめないために。