オーロラの歌



前世の使命を受け継ぐ前まで、椎本くんはいいところのない、冷たい人だと勘違いしていた。


でも、私は知ってしまった。



クールって言われてるけど、実は照れ屋だということ。


危険な状況の時、ためらう素振りも素通りしようとする思考も全くなく、一心に救おうとしてくれること。


仲間になりたくない、深い理由があること。


その理由に、今も苦しんでいること。


誰かの温もりを忘れてしまっていること。


昼休みになると、イービル探しをしていてくれたこと。


おそらく放課後も、遅くまでイービルの正体を突き止めようとしてくれていること。



椎本くんは、本当は優しい人。


ただ、不器用なだけ。



『誰かが泣いていたら、傷ついていたら、苦しんでいたら、手を差し伸べてあげてね。たとえ、誰であっても』



アンジェラスとの約束が、脳内をかすめた。


私は椎本くんの右の拳に、自分の手を優しく重ねた。



「ねぇ、椎本くん」



椎本くんの古傷を、歌を歌って治したい。


けど、能力の仕組みを知っている椎本くんにそんなことをしたら、また怒られちゃう。


だから、せめて言葉を紡がせて。



「なんでも一人でやろうとしないで」




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