オーロラの歌
今更、敵に殺られた傷が、疼く。
……よかった、ロープを掴めて。
敵は、私の一瞬の気の緩みを見逃さなかった。
私の握力が弱まって、するり、と無造作に抜けてしまったロープは、体勢を整えるために床を一回叩くと。
しなやかに踊るように、けれど激しく、私のお腹らへんを殴った。
「うっ、」
私はバランスを崩し、後ろに倒れる。
宙に放り出された怜司くんへのクッキーは、私の背中が床にぶつかる数秒前に、床と接触し、ボロボロに砕けてしまった。
背中をじわじわと蝕む痛みなんかより、ラッピング袋の中の無残なクッキーを目にした方が、何倍も苦しくなった。
クッキーの残骸に、唇を噛み締める。
せっかく、気持ちを込めて、頑張って作ったのに……。
努力が無駄になったようで、辛さを隠せなかった。
「琉美、大丈夫か!?」
「怜司くん、ご、ごめん、クッキーが……」
駆け寄ってくれた怜司くんを前に、憂いに沈む。