オーロラの歌
ある物とは、砕けてしまったクッキー。
怜司くんにあげたかったんだけど、粉々になっちゃったから、もうあげられないな。
また今度クッキーを作ったら、怜司くんに渡そう。
「お前が作ったんだよな?」
「そ、そうだけど」
なぜか確認されて、困惑する。
それがどうしたの?
私が首を傾げると、怜司くんはリボンを解いた。
「えっ、な、何してるの!?」
ま、まさか……。
私の予想通り、怜司くんは袋の中からボロボロになったクッキーを一欠片取り、頬張った。
「美味い」
「ほ、本当?」
「あぁ、すっげぇ美味ぇよ」
怜司くんは視線を外して、頬を赤く染めながら言った。
嬉しくて、笑顔がこぼれる。
「つ、作ってくれて、ありがとな」
一瞬だけ私を見た怜司くんの耳は、りんごのように真っ赤だった。
胸の奥が高鳴って、幸せを感じる。
――もしかしたら、私……。
火照った純情に降り積もった、前世での秘密の共有者である満月からの贈り物。
不器用に、艶やかに、甘く切ない想いが咲こうとしていた。