オーロラの歌
本当は利一くんに、関係のない人に、こんなこと頼みたくない。
けれど、常にどんなことにも対応できるようにし、万が一の場合に備えておかなければならない。
なにせ、これから会う相手は、難攻不落な女王様なんだから。
「お願いしてもいい?」
保健室の窓からは、体育館の隣に設置された屋内プールが見える。
中まではさすがに見えないとは思うけど。
イービルらしき人物が慌てた様子でプールから出てきたり、私が何時間も保健室に来なかったりしたら。
利一くんの連絡が、イービルとの闘いの反撃の狼煙になるかもしれないし、ピンチがチャンスに変わる一手になるかもしれない。
「琉美先輩は、どうしてもプールに行くんですか?」
「……うん」
利一くんに迷惑をかけちゃって、ごめんね。
江藤先輩も怜司くんも頼れなくて。
こうするしか思いつかなかった。
「一人で、ですか?」
その問いかけには、答えなかった。
不意に脳裏を過ぎる、怜司くんに伝えた、自分の声。
『全てを独りで背負わないで』
独りで抱えているわけじゃない。
ただ、私が行かなくちゃいけないから、行くだけ。