オーロラの歌




屋内プールの建物前までやって来た。


扉には鍵がかかっていなくて、不用心だった。


イービルが仕組んだのか、それとも水泳部の人が昨日閉め忘れただけなのか。


悶々と思考回路を巡らせながら、扉を開けた。



きちんと裸足になって、プールサイドに踏み入れる。


屋内プールには、誰もいなかった。


イービルは、まだ来ていないようだ。


呼び出しといて私よりも遅いなんて、失礼じゃないの?


拍子抜けした私は、しゃがみこんで、水の中に手を入れてみる。


冷たくて、気持ちいい。


屋内に、塩素の匂いが漂う。



水にちょん、と触れた指先。


そこから描かれた波紋が、どんどん大きく広がっていく。



『誰も憎まないで』



アンジェラスの言葉を思い出して、水から手を放した。



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