新生児マス・スクリーニング―赤ちゃんの命を救う話を、ドクターから聞きました―
「2002年のノーベル賞の、田中耕一さん。サラリーマンにしてノーベル賞を受賞して、受賞後の会見には七三分けの作業服姿で出席した人ですよ。
20回以上のお見合いでようやく結婚したとか、電車を眺めるのが毎日の通勤での楽しみだとか、朴訥なエピソードで知られる人です。話題になったでしょ?」
「ああ。へえ」
マヌケなリアクションしかできない。
ごめんなさい。
2002年は一介の文学部生で、サイエンス関係のニュースはわかんないから全部スルーしてました。
「田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞したテーマは『ソフトレーザー脱離イオン化法』ですが、どういう技術かというと、『一滴の血液から病気を早期発見する技術』です」
「一滴の血液から……そのキャッチコピー、カッコいいですね。それがつまりタンデムマス法にも使われる技術で、赤ちゃんの一滴の血液から20種類以上の病気を素早く検査できる方法なんですね」
「そういうことです。しかし、ずいぶん熱心に話を聞いてくださいますね。話し甲斐がありますよ」
「実は私、ライターをしてまして、知ったらおもしろいかもと思ったことには食い付く性質がありまして」
「それはいい! ぜひ新生児マス・スクリーニングについて書いて、方々に広めてくださいよ。何でも情報提供しますよ」
「ありがとうございます! ネタにさせていただきます!」
口が滑った。
ネタって言い方はない。
でも、小石川先生は怒らず、楽しそうに笑ってくれた。
紳士だ。