新生児マス・スクリーニング―赤ちゃんの命を救う話を、ドクターから聞きました―


「その怖い未来予想図、どうしたらいいんですか?」



「どうしたらいいんでしょうね? 保険の制度を全面的に変えるのは難しいとしても、国が特殊ミルクにきちんと補助金を出してくれるようなシステムが確立するとか、いっそのこと特殊ミルクの専門会社を誰かが創って状況の改善を訴えていくとか、僕たち小児科医とは違う職種の人々の力を借りないといけませんよね」



帰国中の小石川先生が講演会で話す内容は、新生児マス・スクリーニングで陽性反応が出た赤ちゃんのおかあさんを対象にするだけじゃない。


もっと広く、社会全体のいろんな職種の人たちに向けて、先天性代謝異常症の患者さんのサポート体制について考えてもらいたいというのが、小石川先生の講演のねらいだ。



いろんな職種の人の中に、ライターの私は含まれるだろうか。


私も微力ながらお手伝いできるだろうか。



と。


いきなりだった。



「ヘイ、ドクター・コイシカワ! こんなところでナンパですか?」



若い男の人の声が真後ろから聞こえた。


ビクッとして振り返ると、スポーティなサングラスを掛けたランニングウェアの男の人が、からかうように笑っている。


口元のえくぼがいたずらっぽい。


第一声は完璧に英語の発音だったけど、姿は日本人だ。



小石川先生が、口元にえくぼを刻んで、明るい声で笑った。



「生意気な口を利くな。僕の仕事について説明していただけだ。


ああ、紹介しますよ。息子の公介です。妻の実家から、昨日、1人でこっちに戻ってきました。今、大学生なんですよ」


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