新生児マス・スクリーニング―赤ちゃんの命を救う話を、ドクターから聞きました―
と。
「大丈夫ですか?」
まさか声かけてくれる人がいようとは。
しかも、爽やかな若い男の人の声。
振り返りつつ見上げると、はるか彼方に飛んでいったはずの下駄が、両方そろえて差し出されていた。
その親切な手の持ち主に、あっと声をあげる。
「小石川先生の息子さん?」
「はい、公介です。今朝お会いしましたよね」
「そうですそうです。小石川先生から新生児マス・スクリーニングのお話をうかがってた者です」
「これ、履き物、どうぞ。ケガしてませんか?」
「大丈夫です、すみません」
私は慌てて、使い込んだ下駄を公介くんから受け取った。
公介くんは、さっとしゃがんで、飛び散った野菜を拾い集めてくれた。
申し訳ない。
鼻緒の切れた下駄は、このままじゃ歩けない。
といって、わざわざタクシーで帰宅するような距離でもない。
私は髪をほどいて、何の飾り気もないヘアゴムで足と下駄を固定した。
とりあえず、歩けりゃいいのよ。
そんな私の様子を眺めていた公介くんは、紳士的なことに、荷物持ちを名乗り出てくれた。
お米、持ってくれるらしい。
「ほんとにありがとうございます!」
「いえ、これくらい全然かまいませんよ。父は仕事だし、俺は観光とか興味ないし、ボーッとしながら散歩してたんです」