初恋に息を吹きこんで、
小毬に気づかれないようにため息をこぼした。
まだ授業がはじまるまで少し時間はあるけど、仕方がない。
視線が気になって話に集中できないし、自分の席に戻ろう。
「彩海ちゃん? どうかしたの?」
少し視線のさがった私に向かって、小毬は小首を傾げる。
その様子を見て、その天然具合が羨ましくなった。
でも、私は小毬じゃない。
中途半端に敏感な生き方をしている。
……気づかずにはいられないから。
「そろそろ私、自分の席に戻るね?」
「え? まだチャイム鳴ってないよ」
「リコーダーの今の曲苦手だから。
ちょっと練習しようかなって」
苦手なことはうそじゃないし、そのうちに試験があるこの曲がうまく吹けなかった場合とても悔しく思う。
そのためにも練習は必要なんだ。
実際に、何人かは真面目に練習している人もいる。
言葉の全てが本当のことではないけど、許して欲しい。
納得した小毬はそっか、と頷く。
にっこりと笑って「じゃあわたしも練習しようかな」とリコーダーを手に取ってみせた。