初恋に息を吹きこんで、




「昨日のゼリーより、なにより、恋をしていると嬉しいことがたくさんある」



そう言って田村はふにゃりと無邪気に笑った。



子どもっぽいたとえ方に、正直なにを言いたいのか伝わってこない内容。

だけど、問題はたくさんあるけど、彼なりの言葉にぎゅっと想いがこめられていることはよくわかった。



「俺の想いは、甘いよ」

「……」

「っていうのもアピールしといて!」



そんな冗談みたいな言葉にしてしまうと、チャイムの音で教室が満たされる。

めんどくさいだのなんだの言いながら、彼は前を向いて深く座った。



小毬のことを語る田村の横顔も、唇も、瞳も。

あまりにも幸せそうで、心がほどけるようで、なんとなく私は切なくなった。

私にはないその心が、優しさが、眩しい。



かすかに息を吹きこんだリコーダーは、弱々しい音を床に落とした。

それに反して、隣から聞こえる音は間違っていても元気だ。



恋は嬉しい。

田村の恋は、甘い。



ああ、それは、いったいどんなものなんだろう。



男子なんて、と思っている私には、きっと一生わからない。






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