初恋に息を吹きこんで、
こげ茶の短髪に、イケメンとは言えないフツメン顏。
着崩れているとまでは言わないけど、学ランなんてゆるく身につけていて、いつでも中途半端な格好。
濃紺のセーラー服に青いリボンをきっちりとつけた、私のことなんてきっとばかにしているんだ。
そんな彼は、瞳をきらきらと輝かせて期待をこめて私をじっと見つめている。
わずらわしいばかりの田村に顔を向けられているのは、いつだって音楽の授業で隣の席だから。
テストの時にペアになる私がそばにいる時だけ。
その目的は、とても単純だ。
「おーい、戸部ー」
「うるさい、授業中なんだから静かにして。
真面目にリコーダーの練習してよね」
「それよりもっと大事なことがあるだろ!」
「ないって言ってんの、ばか!」
田村がむすっとむくれた顔になる。
やだ、可愛い顔でもないあんたがしても、それはただ本気でぶさいくなだけだわ。
調子に乗っている彼に苛立ちを隠すこともなく、眉間に深いしわを刻む。
「ただ新庄に俺をアピールしてくれってだけなのに。戸部ってほんとケチだな」
田村は私、戸部彩海(とべ あやみ)の親友、新庄 小毬(しんじょう こまり)のことが好きなんだ。