初恋に息を吹きこんで、
「あのさ、俺、戸部には言っておきたいことが、」
「何回言っても無駄だよ。
小毬とのこと、協力なんてできないから!」
今までずっと断ってきたから、なにもおかしなことではない。
だけどいつもより私はいやだと強く思ってしまって、やけに大きな、必死な声で田村の言葉を遮ってしまった。
秋の風が頬をくすぐる。
だけど冷えていくのはきっとそれだけが理由じゃない。
震える息を吐き出して、田村の見開いた瞳をまばたきもできず見つめる。
こくりと唾を飲みこんだ。
いつもみたいになんでだよって、頼むよって、軽いノリと勢いで言われるのかな。
……言われたくないなぁ。
どうしてそんなふうに思うようになってしまったのか、自分で自分がわからない。
そう考えているうちに、田村はそっとまぶたをおろした。
そして再び目を開けた時、小さく頷いた。
「……うん、わかった」
それはとてもさみしそうな笑みで、泣いているのと変わらないような笑みだった。
なにかを言うべきだと思ったのに、私はなにも言葉を見つけられず、そのままその場を立ち去る彼の背を見ていた。
月曜日。
いつも通り学校に来た私と違い、珍しく欠席の田村を少し不思議に思ってそわそわしていた。
どうしてだろう、という疑問にはすぐに答えが出された。
朝一のホームルーム。
担任の先生が、田村が転校したことを告げた。
金曜日の音楽室で話したことが、私が田村と交わした最後の言葉になってしまった。