初恋に息を吹きこんで、
「なにすんの!」
走ってその場を立ち去る背中に投げつけた言葉は届かず、廊下にぽとりと落ちた。
こんなんじゃ私のライバルにも程遠い。
そんな調子でどうするんだ、田村は。
思わずノートたちを抱き締める腕に力がこもった。
だけどそれも背後からふんわりとかけられた声で、ふっといつもどおりの私に戻る。
「彩海ちゃん、お待たせ」
ハンカチで濡れた手をふきながら、小毬は顔をひょこりとのぞかせる。
笑顔の彼女に応えるように、私もふにゃりと頬を緩めた。
「荷物ありがとうね」
「大丈夫だよ」
周りに飛ぶ花が見えるよう。
柔らかな雰囲気に癒されて、田村への怒りがしぼんでいく。
小毬に免じて田村は許してあげよう、と彼女と肩を並べて教室に向かう。
私より背の低い彼女の揺れる髪をちらりと見た。
すると突然、彼女はぽつりと呟いた。
「彩海ちゃんと田村くんって仲いいよねぇ」
「え⁈」
仲いいよね⁈
なにそれ、どういうこと!
どこからどう見ても仲はよさそうに見えないはずだし、敵対関係にあるというのに。
こんなに自分に向けられて違和感を感じる言葉もない。