初恋に息を吹きこんで、
頬を引くつかせ、顔をのぞきこむ私に小毬はこてん、と首を傾げて笑う。
「だってさっきもおしゃべりしてたし」
さっきっていうのはつまり、きっとお手洗いの前で小毬を待っていた時のことだよね。
なに話してたっけ、と慌てて田村との会話を思い返して、あいつの恋心についてはっきり口にしたか気にかける。
だけどこれは小毬に意識させないためであって、田村に義理立てする必要はないんだったと脱力した。
なにやってるんだろう、私。
「彩海ちゃんと田村くん、音楽の授業の時とかいつも楽しそう。
わたしは田村くんとはほとんど話したことないけど、彩海ちゃんとは相性がいいんだね」
「いやいや……」
小毬の天然め!
どんなとらえ方をしたら仲よく見えるんだ!
まぁ、でもふたりの距離を縮めないために彼女の勘違いにはふれないでおこう。
ずるい?
なんとでも言えばいい。
私は小毬をわずらわせたくない、困らせたくない。
それだけだ。