空の下の笑顔の樹
ふんふん♪
私が写真に目覚めたことは言うまでもない。今日から首にカメラをぶら下げて、店番をしてみることにした。駄菓子屋のおばちゃんから、カメラウーマンに変身だ。
「菓絵ちゃん、おはよう」
「おばあちゃん、おはようございます。いらっしゃい」
「おや、カメラを買ったのかい」
今日も朝一番で私の駄菓子屋に来てくれたお向かいさんのおばあちゃんが、私のカメラに気づいてくれた。
「昨日、買ったんです。おばあちゃんの写真を撮ってあげましょうか」
「菓絵ちゃんの気持ちは嬉しいんだけれども、私は何十年間も写真を撮られたことがないからねえ。こんなよぼよぼのおばあちゃんの写真じゃなくて、もっと若い人の写真を撮ったらどうだい?」
「そんなこと言わずに、写真に写りましょう」
とにかく写真を撮りたくて仕方がない私は、お向かいさんのおばあちゃんの手を引っ張って、何度も何度もお願いしてみた。
「それじゃあ、一枚だけ撮ってもらうとするかね」
お向かいさんのおばあちゃんが嬉しそうな顔をしている。私も嬉しい。
「どうもありがとうございます」
さっそくカメラのファインダーを覗き込み、照れくさそうにしているお向かいさんのおばあちゃんの顔にピントを合わせた。最高の被写体だと思う。
「それでは撮りますね。はい、チーズ」
パシャ! お向かいさんのおばあちゃんの笑顔の顔写真。また一枚、思い出の写真が増えた。
「おばあちゃんの写真は、現像が出来次第、持っていきますので、楽しみにしていてくださいね」
「ありがとう。楽しみにしているよ」
私に写真を撮られたお向かいさんのおばあちゃんは、とてもご機嫌な様子で、大好物のお煎餅を十袋も買ってくれた。私は嬉しくなって、椅子に座ってお煎餅を食べ始めたお向かいさんのおばあちゃんの写真を撮りまくってしまった。
「菓絵ちゃんは、若くて美人だから、特に男性客が喜ぶんじゃないかな」
「そんなことないですよ。おばあちゃんは、相変わらずお世辞がお上手ですね」
にこやかな笑顔でお煎餅を食べているお向かいさんのおばあちゃんと会話を楽しんでいたとき、茶色のビジネスバッグを持ったスーツ姿の中年男性が店内に入ってきた。仕事中の息抜きなのだと思う。営業回りの途中に、私の駄菓子屋にふらりと立ち寄ってくれるお客さんは意外と多い。
「こんにちは。いらっしゃい」
「こんにちは。お邪魔しております」
「どうも初めまして。私は、この駄菓子屋を営んでいる佐藤菓絵と申します。お客様は、初めてのご来店ですよね?」
「あ、はい。初めてです」
「お客様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、はい。山中と申します」
「山中さんですね。ごゆっくりとどうぞ」
初対面のお客さんに対して、いきなり写真を撮るなんて言ったら、失礼になるかと思ったけど、駄菓子屋のおばちゃんから、カメラおばちゃんに変身した私の心は制御不能に陥っている。
「この駄菓子と、この駄菓子をください」
「お買い上げ、ありがとうございます。駄菓子を買っていただいたお礼として、山中さんに写真をプレゼントしたいんですが、山中さんの写真を撮ってもよろしいですか?」
「あ、はい」
「どうもありがとうございます。それでは、お買い上げいただいた駄菓子を手に持ってもらって、顔の傍に近づけていただけますか」
「あ、はい。やってみます」
初来店の山中さんは、ちょっと緊張している様子だったけど、私に言われたとおり、駄菓子を顔の傍に近づけてくれて、にっこりと微笑んでくれた。
「それでは撮りますね。はい、チーズ」
パシャ! 山中さんの笑顔の顔写真。また一枚、思い出の写真が増えた。
「山中さんの写真は、また後日、ご来店いただいたときにお渡ししますので、よろしければ、またいらしてくださいね」
「あ、はい。また来ます」
「本日はありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「はい。それでは失礼します」
駄菓子の入った袋を持って、お店から出ていった山中さんは、「あんな美人に写真を撮られるとは、営業を続けてきて本当に良かったな。必ずまた来よう」何やら独り言を唱えながら歩いていった。
「私が菓絵ちゃんの駄菓子屋のことに、いちいち口を挟むのはどうかと思うんだけども、その調子で、お客さんの写真を撮っていけば、もっと繁盛するんじゃないのかい」
いつも私のことを気に掛けてくれているお向かいさんのおばあちゃんは、私にいろんなアドバイスをしてくれる。確かに、このままの調子で、お客さんの写真を撮っていけば、私の駄菓子屋はもっと繁盛すると思う。けれど、なんでもかんでも商売に繫げてしまうのはよくないと思うし、駄菓子屋の経営のことばかり考えていたら、良い写真が撮れないと思う。私の考えは、どんなことでも商売に繫げるという祖父の教えに反してしまうけど、私はただ単に楽しいから、お客さんの写真を撮っているだけであって、駄菓子屋が繁盛するかどうかは二の次だ。
「私はあくまでも趣味として、お客さんの写真を撮っていくことにします」
「それがいいかもね。まあ、疲れない程度にゆっくりとおやり。それじゃあ、私はそろそろ帰るとするかね」
「はい。今日もありがとうございました。また明日です」
「どうもご馳走様。また明日ね」
お向かいさんのおばあちゃんは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、お煎餅の入った袋を持って家に帰っていった。一日も欠かさず、私の駄菓子屋に来てくれるお向かいさんのおばあちゃん。とても有難くて大きな存在だ。そんなお向かいさんのおばあちゃんには、私より長生きしてほしいと思う。
写真のフィルムもカメラの乾電池もまだまだいっぱい残っている。私はカメラおばちゃんに変身したまま、元気な子供たちの写真やお客さんの写真やご近所さんの写真やミーちゃんとランランちゃんとニボッシーくんの写真などを撮りまくってみた。
みんな喜んでくれて、「また撮ってね」と笑顔で言ってくれた。私は駄菓子屋のおばちゃんであって、カメラウーマンではないけれど、私に元気を与えてくれる人たちのために、笑顔を増やしていくために、いろんな人の写真を撮っていくことにした。私に写真を撮られた子供たちから、パシャパシャカメラ菓絵おばちゃんと呼ばれるようになる日は、そう遠くはないと思う。
首にカメラをぶら下げながら店番をしているうちに、私が予想していたとおり、子供たちから、パシャパシャカメラ菓絵おばちゃんと呼ばれるようになってしまった。嬉しいような、悲しいような。複雑な心境になったけど、私はパシャパシャカメラ菓絵おばちゃんに変身したまま、いろんな人の写真を撮り続けていった。
アルバムにどんどん写真が増えていく。現像代は馬鹿にならなかったけど、趣味にお金を使うことは、無駄なことでも悪いことでもないと思うし、写真はその時の記憶を甦らせてくれるし、大切に保管していけば、燃えない限り、消えてなくなることもない。
ふんふん♪
木の葉が赤く色づき始めてからも、季節外れの麦わら帽子を被り、毎週土曜日に、優太と一緒に秘密の丘に通い続けた。秋が深まるにつれて、夕焼けの色が濃くなっていく。
私と優太は、この日も空の写真を撮りまくり、お互いの似顔絵を描き合い、オレンジ色の夕焼け空に向かって紙飛行機を飛ばし、空の下の笑顔の樹の下に座って駄菓子を食べながら星空を見上げた。写真に絵に紙飛行機にオレンジ色の夕焼け空に美しい星空に優太の優しい笑顔。まさに芸術の秋。
「たまには他の場所に行ってみようか」
街歩きが好きな優太の提案で、他の街も散策してみようということになった。
地図を見ることもなく、行き先を決めるわけでもなく、ただ電車に乗って、見知らぬ駅で降りて、カメラを片手に散策を楽しむ。
一日中歩き回っても、秘密の丘のような素敵な丘を見つけることはできなかったけど、珍しいレストランやカフェやアクセサリーショップや美術館や絵本の博物館を発見できたりで、私も街歩きの楽しさがわかるようになってきた。
天気の悪い日は、私の家で過ごし、絵を描いたり、写真を撮り合ってみたり、商品の駄菓子を食べまくってみたり、音楽のリズムに合わせて踊ってみたり、私の寝室でウフフなことも。私も優太もシャイな性格なので、エッチはぎこちない。
私が写真に目覚めたことは言うまでもない。今日から首にカメラをぶら下げて、店番をしてみることにした。駄菓子屋のおばちゃんから、カメラウーマンに変身だ。
「菓絵ちゃん、おはよう」
「おばあちゃん、おはようございます。いらっしゃい」
「おや、カメラを買ったのかい」
今日も朝一番で私の駄菓子屋に来てくれたお向かいさんのおばあちゃんが、私のカメラに気づいてくれた。
「昨日、買ったんです。おばあちゃんの写真を撮ってあげましょうか」
「菓絵ちゃんの気持ちは嬉しいんだけれども、私は何十年間も写真を撮られたことがないからねえ。こんなよぼよぼのおばあちゃんの写真じゃなくて、もっと若い人の写真を撮ったらどうだい?」
「そんなこと言わずに、写真に写りましょう」
とにかく写真を撮りたくて仕方がない私は、お向かいさんのおばあちゃんの手を引っ張って、何度も何度もお願いしてみた。
「それじゃあ、一枚だけ撮ってもらうとするかね」
お向かいさんのおばあちゃんが嬉しそうな顔をしている。私も嬉しい。
「どうもありがとうございます」
さっそくカメラのファインダーを覗き込み、照れくさそうにしているお向かいさんのおばあちゃんの顔にピントを合わせた。最高の被写体だと思う。
「それでは撮りますね。はい、チーズ」
パシャ! お向かいさんのおばあちゃんの笑顔の顔写真。また一枚、思い出の写真が増えた。
「おばあちゃんの写真は、現像が出来次第、持っていきますので、楽しみにしていてくださいね」
「ありがとう。楽しみにしているよ」
私に写真を撮られたお向かいさんのおばあちゃんは、とてもご機嫌な様子で、大好物のお煎餅を十袋も買ってくれた。私は嬉しくなって、椅子に座ってお煎餅を食べ始めたお向かいさんのおばあちゃんの写真を撮りまくってしまった。
「菓絵ちゃんは、若くて美人だから、特に男性客が喜ぶんじゃないかな」
「そんなことないですよ。おばあちゃんは、相変わらずお世辞がお上手ですね」
にこやかな笑顔でお煎餅を食べているお向かいさんのおばあちゃんと会話を楽しんでいたとき、茶色のビジネスバッグを持ったスーツ姿の中年男性が店内に入ってきた。仕事中の息抜きなのだと思う。営業回りの途中に、私の駄菓子屋にふらりと立ち寄ってくれるお客さんは意外と多い。
「こんにちは。いらっしゃい」
「こんにちは。お邪魔しております」
「どうも初めまして。私は、この駄菓子屋を営んでいる佐藤菓絵と申します。お客様は、初めてのご来店ですよね?」
「あ、はい。初めてです」
「お客様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、はい。山中と申します」
「山中さんですね。ごゆっくりとどうぞ」
初対面のお客さんに対して、いきなり写真を撮るなんて言ったら、失礼になるかと思ったけど、駄菓子屋のおばちゃんから、カメラおばちゃんに変身した私の心は制御不能に陥っている。
「この駄菓子と、この駄菓子をください」
「お買い上げ、ありがとうございます。駄菓子を買っていただいたお礼として、山中さんに写真をプレゼントしたいんですが、山中さんの写真を撮ってもよろしいですか?」
「あ、はい」
「どうもありがとうございます。それでは、お買い上げいただいた駄菓子を手に持ってもらって、顔の傍に近づけていただけますか」
「あ、はい。やってみます」
初来店の山中さんは、ちょっと緊張している様子だったけど、私に言われたとおり、駄菓子を顔の傍に近づけてくれて、にっこりと微笑んでくれた。
「それでは撮りますね。はい、チーズ」
パシャ! 山中さんの笑顔の顔写真。また一枚、思い出の写真が増えた。
「山中さんの写真は、また後日、ご来店いただいたときにお渡ししますので、よろしければ、またいらしてくださいね」
「あ、はい。また来ます」
「本日はありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「はい。それでは失礼します」
駄菓子の入った袋を持って、お店から出ていった山中さんは、「あんな美人に写真を撮られるとは、営業を続けてきて本当に良かったな。必ずまた来よう」何やら独り言を唱えながら歩いていった。
「私が菓絵ちゃんの駄菓子屋のことに、いちいち口を挟むのはどうかと思うんだけども、その調子で、お客さんの写真を撮っていけば、もっと繁盛するんじゃないのかい」
いつも私のことを気に掛けてくれているお向かいさんのおばあちゃんは、私にいろんなアドバイスをしてくれる。確かに、このままの調子で、お客さんの写真を撮っていけば、私の駄菓子屋はもっと繁盛すると思う。けれど、なんでもかんでも商売に繫げてしまうのはよくないと思うし、駄菓子屋の経営のことばかり考えていたら、良い写真が撮れないと思う。私の考えは、どんなことでも商売に繫げるという祖父の教えに反してしまうけど、私はただ単に楽しいから、お客さんの写真を撮っているだけであって、駄菓子屋が繁盛するかどうかは二の次だ。
「私はあくまでも趣味として、お客さんの写真を撮っていくことにします」
「それがいいかもね。まあ、疲れない程度にゆっくりとおやり。それじゃあ、私はそろそろ帰るとするかね」
「はい。今日もありがとうございました。また明日です」
「どうもご馳走様。また明日ね」
お向かいさんのおばあちゃんは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、お煎餅の入った袋を持って家に帰っていった。一日も欠かさず、私の駄菓子屋に来てくれるお向かいさんのおばあちゃん。とても有難くて大きな存在だ。そんなお向かいさんのおばあちゃんには、私より長生きしてほしいと思う。
写真のフィルムもカメラの乾電池もまだまだいっぱい残っている。私はカメラおばちゃんに変身したまま、元気な子供たちの写真やお客さんの写真やご近所さんの写真やミーちゃんとランランちゃんとニボッシーくんの写真などを撮りまくってみた。
みんな喜んでくれて、「また撮ってね」と笑顔で言ってくれた。私は駄菓子屋のおばちゃんであって、カメラウーマンではないけれど、私に元気を与えてくれる人たちのために、笑顔を増やしていくために、いろんな人の写真を撮っていくことにした。私に写真を撮られた子供たちから、パシャパシャカメラ菓絵おばちゃんと呼ばれるようになる日は、そう遠くはないと思う。
首にカメラをぶら下げながら店番をしているうちに、私が予想していたとおり、子供たちから、パシャパシャカメラ菓絵おばちゃんと呼ばれるようになってしまった。嬉しいような、悲しいような。複雑な心境になったけど、私はパシャパシャカメラ菓絵おばちゃんに変身したまま、いろんな人の写真を撮り続けていった。
アルバムにどんどん写真が増えていく。現像代は馬鹿にならなかったけど、趣味にお金を使うことは、無駄なことでも悪いことでもないと思うし、写真はその時の記憶を甦らせてくれるし、大切に保管していけば、燃えない限り、消えてなくなることもない。
ふんふん♪
木の葉が赤く色づき始めてからも、季節外れの麦わら帽子を被り、毎週土曜日に、優太と一緒に秘密の丘に通い続けた。秋が深まるにつれて、夕焼けの色が濃くなっていく。
私と優太は、この日も空の写真を撮りまくり、お互いの似顔絵を描き合い、オレンジ色の夕焼け空に向かって紙飛行機を飛ばし、空の下の笑顔の樹の下に座って駄菓子を食べながら星空を見上げた。写真に絵に紙飛行機にオレンジ色の夕焼け空に美しい星空に優太の優しい笑顔。まさに芸術の秋。
「たまには他の場所に行ってみようか」
街歩きが好きな優太の提案で、他の街も散策してみようということになった。
地図を見ることもなく、行き先を決めるわけでもなく、ただ電車に乗って、見知らぬ駅で降りて、カメラを片手に散策を楽しむ。
一日中歩き回っても、秘密の丘のような素敵な丘を見つけることはできなかったけど、珍しいレストランやカフェやアクセサリーショップや美術館や絵本の博物館を発見できたりで、私も街歩きの楽しさがわかるようになってきた。
天気の悪い日は、私の家で過ごし、絵を描いたり、写真を撮り合ってみたり、商品の駄菓子を食べまくってみたり、音楽のリズムに合わせて踊ってみたり、私の寝室でウフフなことも。私も優太もシャイな性格なので、エッチはぎこちない。