空の下の笑顔の樹
「どうしてなんだ。いったいどうして美咲に十二回も連続で負けたんだ」
 あたしに十二回連続で負けたことが、かなりショックだったのか、お父さんがリビングの床にすっ転がっているベーゴマに向かって独り言を言っている。
「ねえ、お父さん。今日は、たまたま運が悪かっただけだよ」
「そ、そそ、そうだよな。今日は、たまたま運が悪かっただけだよな。よし! お父さんもおもちゃで遊ぶぞ!」
 立ち直った様子のお父さんが、みんなの駄菓子屋さんで買った銀玉鉄砲に玉を込めて、「バーン! バキューン! バキューン!」と口で言いながら、リビングのカーテンに向かって銀玉鉄砲を撃ち始めた。そんなに散らかしたら、お母さんに叱られちゃうよ。とは言えない。
 銀球鉄砲を撃ちまくっているお父さんはほっといて、あたしのひと月分のお小遣いを、たった三十分間で稼いでくれたベーゴマちゃんの絵を描いてみた。今日は気分が乗っているせいか、いつもより指の調子が良い。
「真奈美、一緒にシャボン玉を吹いてみようか」
「うん。ちょっと待っててね」
 子供部屋の窓を開けて、みんなの駄菓子屋さんで買ってきたシャボン玉の容器にストローを刺して、オレンジ色に染まり始めてきた空に向かって、真奈美と一緒にシャボン玉を吹いてみた。
「わあ、すごく綺麗だね」
「シャボン玉ちゃーん! がんばって飛んでゆけー」
 真奈美の声援が届いたのか、大きなシャボン玉も小さなシャボン玉も、太陽さんの陽射しに照らされて、七色に輝きながら飛んでいき、ゆらゆらと風に揺られながら、空高く舞い上がっていった。速攻でシャボン玉をスケッチだ。
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