空の下の笑顔の樹
ずっともやもやしたまま。頭の中は佐藤菓絵さんという人のことでいっぱい。部活に出たものの、アートを楽しむ気にも鼻歌を歌う気にもなれない。
部活が終わった後、どんなことでも気軽に話せる森川先生に、あたしの国語の答案用紙を見せて、不思議な声のことも話してみた。
「…………本当に、佐藤菓絵と書かれているわね」
いつも笑顔でいる森川先生が驚いたような顔をしている。答案用紙を持った手が震えているように見える。もしかして……。
「森川先生は、佐藤菓絵さんという人のことを知っているんですか?」
「知っているも何も、菓絵さんは、私に絵の描き方を教えてくれた先生なのよ」
「そうだったんですか」
「うん。珍しい名前だから、間違いないと思う」
森川先生がいつになく真剣な表情をしている。佐藤菓絵さんは、森川先生の先生……。
「国語のテスト中に聞こえた声の他に、何か不思議なことはあった?」
「はい。小五の途中から、不思議なことがありました」
佐藤菓絵さんのことを知っている森川先生に、みんなの駄菓子屋さんのこと。ベーゴマのこと。お店番のこと。五円チョコのこと。駄菓子屋さんの夢のこと。携帯電話のメールアドレスのこと。夕焼け空の写真のこと。頭の中に映った白いもののことを話してみた。
「あくまでも、私の推測なんだけど、もしかしたら、青山さんは、菓絵さんの生まれ変わりなのかもしれないわね」
あたしは……。佐藤菓絵さんの生まれ変わり……。
「本当に、あたしは佐藤菓絵さんの生まれ変わりなんでしょうか」
「青山さんの不思議な体験からして、間違いないと思う。菓絵さんは、駄菓子屋さんを経営していたし、ベーゴマが強かったし、五円チョコが大好きだったからね。それに、いちばんの決め手は、青山さんが私の少女時代の顔をそっくりに描けたこと。私の少女時代の顔を、あんなにそっくりに描けるのは、菓絵さんしかいないと思うの」
「なるほど」
佐藤菓絵さんと親交のあった森川先生の言うことには説得力があると思った。森川先生の少女時代の顔をそっくりに描いたのは、あたしじゃなくて、佐藤菓絵さん。
「もしも本当に、あたしが佐藤菓絵さんの生まれ変わりだとしたら、どうして佐藤菓絵さんは、あたしに生まれ変わったのでしょうか」
「んんー、それはわからないわね。私は生まれ変わりについて、そんなに詳しくはないんだけど、青山さんのケースは、ごく稀なケースだと思うの。当時の写真を見れば、何か手がかりが掴めるかもしれないわね。今から私の家に行かない?」
「はい。森川先生の家にお邪魔させていただきます」
佐藤菓絵さんの写真を見てみたいとの思いから、あたしは即答で返事をした。どうしても謎を解き明かしたい。森川先生も同じ思いだと思う。
お母さんにメールをして、森川先生の車に乗り込んだ。なんとも言えない緊張感。ドライブを楽しむ余裕はない。もうすぐ、あたしの中の私に逢える。もうすぐ、あたしの中の佐藤菓絵さんに逢える。
「ここが私の部屋よ。ちょっと狭いんだけど、遠慮なく寛いでね」
「はい。お邪魔します」
森川先生の家はワンルームマンション。いろんな絵が飾られていて、オシャレなデザインのインテリアが置かれている。さすが大人の女性。あたしと真奈美の子供部屋とは大違いだ。
「青山さんは、そこに座ってて」
「あ、はい」
お部屋の真ん中に置かれているテーブルの前に座って、壁に飾られている絵を見つめてみた。
ユニコーンのようなお馬さんが夜空を飛んでいる絵
可愛らしい妖精さんたちがお花畑の中で戯れている絵
サンタクロースのおじちゃんが雲の上のベンチに座っている絵
まるで写真のようなリアルな風景画
あたしが美術部に入部した日に見た森川先生の彼氏さんの肖像画
さすがあたしが憧れている森川先生。どの絵も上手すぎる。
「青山さん、お待たせ」
絵に見とれている間に、森川先生がクッキーとビスケットとチョコっと太郎と紅茶を置いてくれた。
「あたしは、チョコっと太郎が大好きなんですが、森川先生も、チョコっと太郎がお好きなんですか?」
「うん。私もチョコっと太郎が大好きで、ネットで取り寄せて食べているのよ」
森川先生も、チョコっと太郎が大好き。
ふんふん♪ ふふふん♪ ふふふふふーん♪
なんだかすごく嬉しくなって、森川先生の前で鼻歌を歌ってしまった。
「ふふふ。その鼻歌のリズム、菓絵さんがよく歌っていた鼻歌のリズムと全く同じよ」
森川先生がとっても嬉しそうな顔をしている。
ふんふん♪ ふふふん♪ ふふふふふーん♪
あたしが歌っている鼻歌のリズムは、佐藤菓絵さんから受け継いだもの。
「緊張がほぐれてきたようね。それじゃあ、アルバムを見ましょうか」
「あ、はい」
鼻歌を歌うのはやめて、森川先生が開いてくれたアルバムに掲載されている写真を見つめてみた。数ある写真の中で、あたしの目に真っ先に飛び込んできた写真は、麦わら帽子姿の女性の写真。
「この写真の女性が、佐藤菓絵さんなんですか?」
「そうよ。すごい美人でしょ」
「はい。とてもお美しい方だと思います」
天使さんのような笑顔で微笑んでいる佐藤菓絵さん。スタイルが良くて美人でとっても優しそうな感じの女性。昔の写真だけど、あたしはやっと佐藤菓絵さんに逢えた。なんとも言えない嬉しさがこみ上げてくる。
「佐藤菓絵さんは、どんな人だったんですか?」
「青山さんも、菓絵さんと呼んであげて。そのほうが喜んでくれると思うの」
「はい。あたしも菓絵さんと呼ばせていただきます」
「ありがとう。それじゃあ、菓絵さんのことについて話すわね」
「はい。よろしくお願いします」
あたしの中の菓絵さんは、森川先生とあたしの会話に耳を傾けているのだろうか。なんだかすごく不思議な感じ。
部活が終わった後、どんなことでも気軽に話せる森川先生に、あたしの国語の答案用紙を見せて、不思議な声のことも話してみた。
「…………本当に、佐藤菓絵と書かれているわね」
いつも笑顔でいる森川先生が驚いたような顔をしている。答案用紙を持った手が震えているように見える。もしかして……。
「森川先生は、佐藤菓絵さんという人のことを知っているんですか?」
「知っているも何も、菓絵さんは、私に絵の描き方を教えてくれた先生なのよ」
「そうだったんですか」
「うん。珍しい名前だから、間違いないと思う」
森川先生がいつになく真剣な表情をしている。佐藤菓絵さんは、森川先生の先生……。
「国語のテスト中に聞こえた声の他に、何か不思議なことはあった?」
「はい。小五の途中から、不思議なことがありました」
佐藤菓絵さんのことを知っている森川先生に、みんなの駄菓子屋さんのこと。ベーゴマのこと。お店番のこと。五円チョコのこと。駄菓子屋さんの夢のこと。携帯電話のメールアドレスのこと。夕焼け空の写真のこと。頭の中に映った白いもののことを話してみた。
「あくまでも、私の推測なんだけど、もしかしたら、青山さんは、菓絵さんの生まれ変わりなのかもしれないわね」
あたしは……。佐藤菓絵さんの生まれ変わり……。
「本当に、あたしは佐藤菓絵さんの生まれ変わりなんでしょうか」
「青山さんの不思議な体験からして、間違いないと思う。菓絵さんは、駄菓子屋さんを経営していたし、ベーゴマが強かったし、五円チョコが大好きだったからね。それに、いちばんの決め手は、青山さんが私の少女時代の顔をそっくりに描けたこと。私の少女時代の顔を、あんなにそっくりに描けるのは、菓絵さんしかいないと思うの」
「なるほど」
佐藤菓絵さんと親交のあった森川先生の言うことには説得力があると思った。森川先生の少女時代の顔をそっくりに描いたのは、あたしじゃなくて、佐藤菓絵さん。
「もしも本当に、あたしが佐藤菓絵さんの生まれ変わりだとしたら、どうして佐藤菓絵さんは、あたしに生まれ変わったのでしょうか」
「んんー、それはわからないわね。私は生まれ変わりについて、そんなに詳しくはないんだけど、青山さんのケースは、ごく稀なケースだと思うの。当時の写真を見れば、何か手がかりが掴めるかもしれないわね。今から私の家に行かない?」
「はい。森川先生の家にお邪魔させていただきます」
佐藤菓絵さんの写真を見てみたいとの思いから、あたしは即答で返事をした。どうしても謎を解き明かしたい。森川先生も同じ思いだと思う。
お母さんにメールをして、森川先生の車に乗り込んだ。なんとも言えない緊張感。ドライブを楽しむ余裕はない。もうすぐ、あたしの中の私に逢える。もうすぐ、あたしの中の佐藤菓絵さんに逢える。
「ここが私の部屋よ。ちょっと狭いんだけど、遠慮なく寛いでね」
「はい。お邪魔します」
森川先生の家はワンルームマンション。いろんな絵が飾られていて、オシャレなデザインのインテリアが置かれている。さすが大人の女性。あたしと真奈美の子供部屋とは大違いだ。
「青山さんは、そこに座ってて」
「あ、はい」
お部屋の真ん中に置かれているテーブルの前に座って、壁に飾られている絵を見つめてみた。
ユニコーンのようなお馬さんが夜空を飛んでいる絵
可愛らしい妖精さんたちがお花畑の中で戯れている絵
サンタクロースのおじちゃんが雲の上のベンチに座っている絵
まるで写真のようなリアルな風景画
あたしが美術部に入部した日に見た森川先生の彼氏さんの肖像画
さすがあたしが憧れている森川先生。どの絵も上手すぎる。
「青山さん、お待たせ」
絵に見とれている間に、森川先生がクッキーとビスケットとチョコっと太郎と紅茶を置いてくれた。
「あたしは、チョコっと太郎が大好きなんですが、森川先生も、チョコっと太郎がお好きなんですか?」
「うん。私もチョコっと太郎が大好きで、ネットで取り寄せて食べているのよ」
森川先生も、チョコっと太郎が大好き。
ふんふん♪ ふふふん♪ ふふふふふーん♪
なんだかすごく嬉しくなって、森川先生の前で鼻歌を歌ってしまった。
「ふふふ。その鼻歌のリズム、菓絵さんがよく歌っていた鼻歌のリズムと全く同じよ」
森川先生がとっても嬉しそうな顔をしている。
ふんふん♪ ふふふん♪ ふふふふふーん♪
あたしが歌っている鼻歌のリズムは、佐藤菓絵さんから受け継いだもの。
「緊張がほぐれてきたようね。それじゃあ、アルバムを見ましょうか」
「あ、はい」
鼻歌を歌うのはやめて、森川先生が開いてくれたアルバムに掲載されている写真を見つめてみた。数ある写真の中で、あたしの目に真っ先に飛び込んできた写真は、麦わら帽子姿の女性の写真。
「この写真の女性が、佐藤菓絵さんなんですか?」
「そうよ。すごい美人でしょ」
「はい。とてもお美しい方だと思います」
天使さんのような笑顔で微笑んでいる佐藤菓絵さん。スタイルが良くて美人でとっても優しそうな感じの女性。昔の写真だけど、あたしはやっと佐藤菓絵さんに逢えた。なんとも言えない嬉しさがこみ上げてくる。
「佐藤菓絵さんは、どんな人だったんですか?」
「青山さんも、菓絵さんと呼んであげて。そのほうが喜んでくれると思うの」
「はい。あたしも菓絵さんと呼ばせていただきます」
「ありがとう。それじゃあ、菓絵さんのことについて話すわね」
「はい。よろしくお願いします」
あたしの中の菓絵さんは、森川先生とあたしの会話に耳を傾けているのだろうか。なんだかすごく不思議な感じ。