空の下の笑顔の樹
「カレンダーを持っていないから、何日なのかはわからないんだ。たぶん、大切な日なんじゃないかと思うよ」
「大切な日ですか……」
あたしは足りない頭を振り絞って考えてみた。大切な日……。大切な日……。
「たまに来ているということは、月に一度くらいですか?」
「うん。月に一度くらいだと思うよ」
「月に一度くらいということは、菓絵さんの誕生日ではないですよね。考えてもわからないので、森川先生に聞いてみます」
「うん。千早ちゃんに聞いてみるといいよ」
「電話で聞いてみますので、ちょっと待っててくださいね」
空の下の笑顔の樹さんの前で、森川先生に電話して聞いてみたところ、優太さんが秘密の丘に来ている日は、菓絵さんの月命日の十五日なのではないかと言っていた。大切な日とは、菓絵さんの月命日。あたしは命日という言葉は知っていたけど、月命日という言葉は知らなかった。あたしが秘密の丘に来た日は、五日と十ニ日と十九日と二十六日。十五日は来ていない。だから、あたしは優太さんに逢えなかったんだ。
「何日なのかわかったかい?」
「はい。わかりました。菓絵さんの月命日の十五日です。優太さんは、いつも何時頃に来ているんですか?」
「いつも夕方に来ているよ」
「夕方ですね。来月の十五日の夕方に来ようと思います」
「うん。優太くんに逢えるといいね」
「はい。すごく楽しみです。今夜はどうもありがとうございました」
「こちらこそ、どうもありがとう。美咲ちゃんと話せて嬉しかったよ」
「あたしも嬉しかったです。それではそろそろ帰りますね」
「うん。もう遅いから、気をつけて帰ってね」
「はい。気をつけて帰ります」
あたしと話してくれた空の下の笑顔の樹さんに頭を下げてお辞儀をして、スクールバッグを持って駅に向かって歩き出した。
「美咲ちゃん! 大切な話があるから! ちょっと待っておくれ!」
星空を見上げながら歩いていたとき、空の下の笑顔の樹さんに呼び止められた。大切な写真が入っているスクールバッグは持っている。何か緊急事態が起きたのだろうか。
「はい! すぐに戻ります!」
あたしは大きな声で返事をして、空の下の笑顔の樹さんの元に走って戻った。
「急に呼び止めてごめんね。美咲ちゃんと話した後に、急に思い出したことがあるんだ」
「どんなことですか?」
「菓絵ちゃんは、美咲ちゃんが立っている真下に、タイムカプセルを埋めてね。もし、私がタイムカプセルを埋めたことを忘れてしまっていたら、教えてくださいね。と言っていたんだ」
「タイムカプセルですか……。あたしが立っている真下に、菓絵さんのタイムカプセルが埋まっているんですね」
「うん。埋まっているよ」
「優太さんは、菓絵さんのタイムカプセルのことを知っているんですか?」
「それがね、優太くんに言おう言おうと思っているうちに忘れてしまってね。今になって思い出したのさ」
「そうだったんですか」
「うん。優太くんに真っ先に伝えなければいけなかったのに、今になって思い出すなんて恥ずかしい話さ」
申し訳なさそうな声で言った空の下の笑顔の樹さん。表情はわからないけど、反省しているのだと思う。
「誰でもうっかり忘れることはありますよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「土を掘って、菓絵さんのタイムカプセルを開けてもいいですか?」
あたしは、菓絵さんと写真でしか逢ったことがない。菓絵さんの生きていた証であるタイムカプセルの中身を見てみたい。
「開けてもいいよ。と言いたいところなんだけど、菓絵ちゃんのタイムカプセルは、優太くんと一緒に開けたほうがいいんじゃないかな」
「あ、そうですね。優太さんと一緒に開けたほうがいいですよね」
「うん。そのほうがいいと思うよ」
「じゃあ、来月の十五日まで待つことにします。菓絵さんのタイムカプセルのことを教えてくださって、どうもありがとうございました」
「どう致しまして。菓絵ちゃんのタイムカプセルのことも、美咲ちゃんが菓絵ちゃんの生まれ変わりであることも、美咲ちゃんの口から伝えておくれ」
「はい。自分の口で伝えます」
「じゃあ、来月の十五日にね」
「はい。必ず来ます」
うっかり者の空の下の笑顔の樹さんと約束して、秘密の丘を後にした。菓絵さんのタイムカプセルには、いったいどんなものが入っているのだろう。今日は、六月二十六日だから、あと十九回眠れば、七月十五日がやって来る。こういうときだけ、早く時が過ぎればいいのにって思う。
「大切な日ですか……」
あたしは足りない頭を振り絞って考えてみた。大切な日……。大切な日……。
「たまに来ているということは、月に一度くらいですか?」
「うん。月に一度くらいだと思うよ」
「月に一度くらいということは、菓絵さんの誕生日ではないですよね。考えてもわからないので、森川先生に聞いてみます」
「うん。千早ちゃんに聞いてみるといいよ」
「電話で聞いてみますので、ちょっと待っててくださいね」
空の下の笑顔の樹さんの前で、森川先生に電話して聞いてみたところ、優太さんが秘密の丘に来ている日は、菓絵さんの月命日の十五日なのではないかと言っていた。大切な日とは、菓絵さんの月命日。あたしは命日という言葉は知っていたけど、月命日という言葉は知らなかった。あたしが秘密の丘に来た日は、五日と十ニ日と十九日と二十六日。十五日は来ていない。だから、あたしは優太さんに逢えなかったんだ。
「何日なのかわかったかい?」
「はい。わかりました。菓絵さんの月命日の十五日です。優太さんは、いつも何時頃に来ているんですか?」
「いつも夕方に来ているよ」
「夕方ですね。来月の十五日の夕方に来ようと思います」
「うん。優太くんに逢えるといいね」
「はい。すごく楽しみです。今夜はどうもありがとうございました」
「こちらこそ、どうもありがとう。美咲ちゃんと話せて嬉しかったよ」
「あたしも嬉しかったです。それではそろそろ帰りますね」
「うん。もう遅いから、気をつけて帰ってね」
「はい。気をつけて帰ります」
あたしと話してくれた空の下の笑顔の樹さんに頭を下げてお辞儀をして、スクールバッグを持って駅に向かって歩き出した。
「美咲ちゃん! 大切な話があるから! ちょっと待っておくれ!」
星空を見上げながら歩いていたとき、空の下の笑顔の樹さんに呼び止められた。大切な写真が入っているスクールバッグは持っている。何か緊急事態が起きたのだろうか。
「はい! すぐに戻ります!」
あたしは大きな声で返事をして、空の下の笑顔の樹さんの元に走って戻った。
「急に呼び止めてごめんね。美咲ちゃんと話した後に、急に思い出したことがあるんだ」
「どんなことですか?」
「菓絵ちゃんは、美咲ちゃんが立っている真下に、タイムカプセルを埋めてね。もし、私がタイムカプセルを埋めたことを忘れてしまっていたら、教えてくださいね。と言っていたんだ」
「タイムカプセルですか……。あたしが立っている真下に、菓絵さんのタイムカプセルが埋まっているんですね」
「うん。埋まっているよ」
「優太さんは、菓絵さんのタイムカプセルのことを知っているんですか?」
「それがね、優太くんに言おう言おうと思っているうちに忘れてしまってね。今になって思い出したのさ」
「そうだったんですか」
「うん。優太くんに真っ先に伝えなければいけなかったのに、今になって思い出すなんて恥ずかしい話さ」
申し訳なさそうな声で言った空の下の笑顔の樹さん。表情はわからないけど、反省しているのだと思う。
「誰でもうっかり忘れることはありますよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「土を掘って、菓絵さんのタイムカプセルを開けてもいいですか?」
あたしは、菓絵さんと写真でしか逢ったことがない。菓絵さんの生きていた証であるタイムカプセルの中身を見てみたい。
「開けてもいいよ。と言いたいところなんだけど、菓絵ちゃんのタイムカプセルは、優太くんと一緒に開けたほうがいいんじゃないかな」
「あ、そうですね。優太さんと一緒に開けたほうがいいですよね」
「うん。そのほうがいいと思うよ」
「じゃあ、来月の十五日まで待つことにします。菓絵さんのタイムカプセルのことを教えてくださって、どうもありがとうございました」
「どう致しまして。菓絵ちゃんのタイムカプセルのことも、美咲ちゃんが菓絵ちゃんの生まれ変わりであることも、美咲ちゃんの口から伝えておくれ」
「はい。自分の口で伝えます」
「じゃあ、来月の十五日にね」
「はい。必ず来ます」
うっかり者の空の下の笑顔の樹さんと約束して、秘密の丘を後にした。菓絵さんのタイムカプセルには、いったいどんなものが入っているのだろう。今日は、六月二十六日だから、あと十九回眠れば、七月十五日がやって来る。こういうときだけ、早く時が過ぎればいいのにって思う。